<中日0-3阪神>◇24日◇ナゴヤドーム

 野球大好きというオバマ大統領も、きっとほめてくれるだろう。年間300打点ペースからパタリと止まっていた阪神マット・マートン外野手(32)が会心のV打だ。6回2死一、二塁でセンター前にクリーンヒット。均衡を破る1点は実に10戦ぶりの打点で、30打点に乗せた。その打席のストライク判定にイライラした感じもみせながら「Yes

 You

 Can!」な仕事っぷりだ。

 両左腕の間に横たわっていた均衡を破ったのはマートンだった。6回2死一、二塁。中日岡田のシュートを振り抜いた。打球は鋭くセンター右へ弾んだ。

 「岩崎がいい投球をしていたので、何とか援護することができて良かったよ」

 じつに10試合ぶりの打点だった。30打点目。4月は27打点目でカークランド、バースの球団外国人最多記録にあと「2」と迫った。小休止していた最強助っ人が再び快進撃開始だ。

 自分との戦いにも勝った。岡田との対決、1ストライクから内角速球を見逃した。西本球審の右手が上がった。その瞬間、何かを口走りながら詰め寄った。ヤバイ-。危険信号を察知した次打者新井良が割って入る。三塁側ベンチから和田監督、関川打撃コーチもあわてて飛び出した。

 納得できない判定にイライラを爆発させる。暴言退場の悪夢がよみがえる。普段は温厚な安打製造機が持つ一面。だが、今のマートンは違った。怒りに耐え、フルカウントまで持ち込み、最後に仕留めた。

 「イライラしながらも勝負に徹してね。そういうのを力に変えてくれたらいい。勝負に入っていけてるから、これだけ打点も挙げているんじゃないかな」

 来日1年目からマートンを知る和田監督は内面の充実ぶりをたたえた。実は前日は“なだめる側”にまわっていた。3点を追う7回、代打を告げられた先発メッセンジャーが自分への怒りと相まって感情を爆発させた。そこで、オマリー打撃コーチ補佐とともに同僚を落ち着かせたのがマートンだったという。

 試合後、決勝打のマートンは短くこう言い残すと、足早にバスに乗り込んだ。

 「グッド。ナイス、ウィン。(お疲れ)したっ!」

 笑顔はなかった。まだ、胸の内にはくすぶるものがあったのかも知れない。それでも、打席の中では自分を制御し、激情と冷静のはざまに立てる。それを証明した一打だった。【鈴木忠平】

 ◆マートンの暴言退場

 13年8月14日広島16回戦(京セラドーム大阪)。3回1死満塁で大竹の初球、変化球にバットを止めたが、ハーフスイングをとられた。2球目の外角の際どいボールを見送ると、ストライク判定。良川球審に顔をくっつけんばかりに詰め寄り、何かまくしたてるように叫んだ。球審は侮辱行為として退場を宣告。翌日15日にプロ野球の加藤良三コミッショナー(当時)が厳重注意と制裁金10万円を科した。