<巨人5-4ヤクルト>◇29日◇東京ドーム

 尊い1勝だ。巨人菅野智之投手(24)が、9回4失点の完投で開幕から無傷の5連勝。セ・リーグ5球団からの勝利を4月中に達成するのは球団史上4人目、実に58年ぶりの快挙となった。1失点の完投勝ちまであと1球の9回、ヤクルト畠山に3ランを打たれた。しかしその裏、アンダーソン、村田の連続適時打で今季初のサヨナラ勝ちを収めた。クールな菅野も、仲間の頼もしい姿に感極まった。

 阿部に肩を抱かれた。耳元で「打たれた後も最後まで頑張った。だから、こういうことが起きるんじゃないか」と言われた。サヨナラ打の村田には、びしょぬれの体をぶつけられた。押し出され、菅野はお立ち台に立った。大声で「すいませんでした」と謝った。グラウンドを1周しても、こわばった笑顔しかつくれなかった。ベンチ裏でも落ち着きが戻らなかった。極まった。「自分がチームの中心とは感じない。でも『自分のために』と感じました」と、やっと言えた。

 「最悪なことが起きて、頭が真っ白になった」。5勝目まであと1球の9回2死一、二塁。畠山だった。落ちないフォークボールを前さばきされた。3ランを見届けると下を向いた。膝に手、を何とかこらえて、肘を突いた。下を向いたのは昨秋以来。仲間がエラーし、膝に手を突いた。「みんなが姿を見ている」と自分本位を悔いた。何が起ころうと前。決めたはずだった。

 「悔しい。情けない」。後続を断って、ベンチの下座に腰掛けた時だった。知らない空気が漂っていた。「今までにないものを感じた。向かっていく気持ちが…。やるせなくなった」と表現した。1球の過ちで負け投手にするわけにいかない。仲間の殺気を感じた。

 片岡は、菅野に声を掛けなかった自分が許せなかった。「マウンドに行きにくかった。毎回いいピッチングをしている。とにかく勝たせたい」と、初球の二塁打で起点を作った。長野が2ストライクから粘り四球を選んだ。アンダーソンの同点打で代走鈴木の勝負手。村田は「今年は特にピンチの時、自分を崩さない」と、菅野のポリシーを見抜いていた。「ここで決める」と総意を込めた。フォークを同じように拾い返して敵を討った。

 原監督は「どんな大選手になっても、周りの力があって自分がある。刻んでおいてもらいたい」と菅野に言った。簡単に終わるに越したことはない。でも簡単に終わらなかったから、頼もしさも、自分への思いも、身に染みて分かった。「次、完封します」と菅野。真の信頼関係が深まっていく。【宮下敬至】

 ▼菅野が2試合連続完投勝ちで5勝目。2試合連続完投、5連勝はともにプロ入り初めてだ。巨人で4月中に5勝は10年東野以来だが、菅野はセの5球団から白星。4月中にセの相手全球団から白星を記録した巨人投手は50年藤本(7球団)52年別所(6球団)56年安原(5球団)に次いで4人目。全球団制覇までの勝敗を出すと、藤本○○○●○○●○○、別所○●○○○●○○、安原○○○●●○○で、「無傷」は菅野だけ。他球団の投手を含め、4月中に無傷でセの相手全球団から勝利は63年河村(中日)に次いで2人目。