<巨人10-5ソフトバンク>◇22日◇東京ドーム
巨人が、2年ぶり2度目の交流戦優勝を飾った。22日、ソフトバンクとの最終戦に完勝した。2回までに7点を奪い、小山が6回3失点にまとめた。原辰徳監督(55)は、交流戦の優勝をあえて宣言し、超積極的な采配で選手を動かし、パ・リーグのエース格をことごとく沈めた。創造と破壊。愛情と覚悟。「有言実行V」に至るまでの、指揮官の深謀を追った。
壊して、創る。原監督が覚悟を決めたのは、交流戦が始まるからではなかった。覚悟は交流戦の10日前、グラウンドに示していた。「野球って面白いな。あらためて思ったよ」と切り出したのは5月11日だった。
延長戦を制した一夜明けだった。阪神の4番ゴメスに対し、極端な守備陣形を敷いた(※注1)。9回2死満塁ではボールカウントに応じて動かした。大胆と繊細が同居したシフトを、巨人の作戦に書き加えた。甲子園のベンチに根を張り、語り出した。「マドン監督は、データに基づき斬新なシフトを敷く。研究熱心な方だ」。万年最下位のレイズをプレーオフの常連に引き上げた立役者に引かれた。「新しいものを勉強しなくちゃ。いい、と思ったら取り入れる。動けば相手は考える。それだけで有利に立てる。結果が裏に出たとする。チャレンジを嘆く必要は、まったくない。まして批判は…」と両手を広げた。「論外だよな」。--◇◇◇◇--
こんな話を、おやじとゆっくりしたかった。
最後に話したのは4月29日だった。菅野の力投がサヨナラ勝ちで報われ、自宅に戻る車中だった。「飯、食おう」。原貢氏から電話だった。楽しい夕食の5日後、突然、倒れた。病院に寝泊まりし球場に通った。「呼吸器が外れれば、話ができるんだけどな。つらいな」。意識は戻らなかった。
病室で手をさすりながら問うた。「おやじはなぜ、東京に来たんだ。三池工にいれば良かったんじゃないか」。答えはなかった。「全国制覇をステップとして、都で勝負する。人生は挑戦。実践しなくては」と、父の志を考えた。
5月に入ると、愛用の黒いノックバットに変化があった。先端の部分だけがくすんできた。考え事をするとき、バットの先で地面に思考を描くのが習慣だった。開幕から波に乗れないチームに閉塞(へいそく)感を感じていた。地面に向かう時間が増えた。「ゴメス・シフト」は現状打破の胎動だった。
奮い立った。「交流戦はペナントを大きく左右し、大きな目標につながる。狙っていく」と、普段はしない優勝宣言をした。貯金3で臨む24試合。大ぶろしきも承知の挑戦だった。
挑戦には創造が、創造には破壊が必要だった。
キャンプから積み重ねてきた骨組みを壊した。原形が分からないほど打線を組み替えた。セペダを4番に固定し、実力者たちの誇りを刺激した。コーチの配置も変えた。緊張を与えながらうねりを起こしていった。別れは突然来る。5月29日、貢氏を亡くした。歩みを止める気はなかった。
6月6日の西武戦では高橋由を正した。好機で代打に送ったが見逃し三振。結果でなく、投球チャートを確認に戻る姿が納得いかなかった。「グラウンドに背を向けてどうする。出番は分かっていたはずだ」と伝えた。最も大きな破壊は、11日の日本ハム戦だった。1点リードの延長10回2死一塁。自らマウンドに向かい、断を下した。
ピッチャー香月。山口からスイッチした(※注2)。川口投手総合コーチは、原監督の覚悟を理解していた。「どんな状況にも対応できるように」と香月に準備させ、落ち着いて継投できた。ただ「私にはできない発想だった」と驚き、眼力に感動した。「打者目線での根拠もあっただろう。でも監督は、もっと大きく、先を見ていたと思う。香月が結果を出せば、最高の自信になる。何より投手陣に厚みを出せる」。果たして3日後の楽天戦。香月は9回1死満塁で救援に立ち、セーブを挙げ、交流戦Vを一気に引き寄せた。
破壊から創造が生まれた。球界最高のリリーバー、山口は「僕が悪い。監督の信頼に足りていない」と危機感を覚えた。香月には「いつでも準備はできている」と風格が出た。原監督は言った。「香月はオリックスから移籍2年目。負け試合からスタートし、努力して居場所を築いた。前に、正しく進んでいけるように道をつけるのが仕事だ」。
有言実行の交流戦優勝は、前へ、正しく進む手段だった。赤ん坊を抱くようにトロフィーを抱えた。会見の終盤だった。「交流戦の前、チーム力となると、かなり不満があった。いい目標になると思い、全体を鼓舞した。私自身も、鼓舞するつもりだった。周囲からは『動きすぎだ』と映るか分からないけど。自分も鼓舞する部分があった」と打ち明け「この先も、変わることはない」と結んだ。
創造と破壊。両極端のベクトルを両立するには、エネルギーを要する。多くの人は目を背ける。原監督は違った。「疲れなんかしないよ。もし、疲れたなんて感じたら、すぐ監督の仕事を辞めるよ」。抱いたトロフィーには、父との別れを契機にした男の覚悟が詰まっている。【宮下敬至】
※注1
1点を追う5回1死三塁、二塁手の片岡が二塁ベース左側に移動。遊撃手の坂本は三遊間を詰めた。遊ゴロも三塁走者の好スタートで生還を許した。同点の9回2死満塁でも採用。カウント1-2からは戻し、山口が空振り三振を奪った。
※注2
2死一塁で右の代打鵜久森のところで、香月にスイッチ。遊飛で試合終了。



