<巨人4-3ヤクルト>◇15日◇東京ドーム

 巨人の誇る「2人の切り札」が、延長12回の熱戦にケリをつけた。1手目は「代打の切り札」高橋由伸外野手(39)だった。2点を追う8回2死満塁、同点の適時二塁打を放った。2手目は延長12回1死一塁、代走に起用された鈴木尚広外野手(36)。2死二塁から、橋本が放った右前打に、卓越された走塁技術でサヨナラのホームを陥れた。

 全力で走った。延長12回2死二塁、大歓声の中、鈴木は白色を探した。ホームベース上には捕手の中村。「回り込めば勝ち目はなかった」。一瞬の判断。猛スピードのまま、ベースに突っ込んだ。「そこしかチャンスがなかった」。わずかに見えたホームベースの先っぽを左手で触った。「感触があったので、セーフだと思った」。土でいっぱいのユニホームで、仲間と抱き合った。

 延長12回1死、井端が内野安打を放ち、ベンチから飛び出した。「代走の切り札」はいつものように、一塁ベースの土を手で払った。「僕にとって、ベースは神聖な場所。気持ちをリセットして」。この日、球場に入ったのは午前11時だった。ストレッチや体幹で体を整え、試合中は場面を想定しながら、4時間もの間、集中力を維持。球場入りから11時間39分後、歓喜の瞬間が訪れた。

 お立ち台の声が歓声でかき消されるほど、すごかった。電光掲示板に映ったのは本塁クロスプレーの場面。鈴木の左手がホームベースに触れた瞬間、「うぉー」と大歓声が上がって、観客の視線を奪った。「僕の役目なんで、いい走塁ができて良かった」。サヨナラ打を放った橋本のインタビュー中にも映し出され、また声が上がった。

 敗戦ムードを振り払ったのは、代打高橋由だった。2点を追う8回2死満塁、値千金の同点適時二塁打を放った。「みんながつないだチャンスを生かすことができて良かった」。代打での打点はリーグ断トツの15打点。経験と極限の集中力で、試合をリセットした。原監督は「(鈴木は)最後、残しておいた。うちの切り札ですから。由伸がいてくれて良かった」と切り札2人の活躍を大絶賛した。【久保賢吾】