<広島3-1DeNA>◇20日◇マツダスタジアム

 本拠地CS開催は渡さない。広島がDeNAに競り勝ち、2位を死守した。負ければ阪神と入れ替わる瀬戸際で、先発福井優也投手(26)が6回を1失点。中崎-ミコライオとつないで、2点リードを守り抜いた。福井は昨年9月18日に父俊治さん(享年54)を失い、今月2日に済美(愛媛)の恩師、上甲正典監督(享年67)を亡くした。天国で見守る2人に4勝目をささげた。

 クールな福井が一瞬、お立ち台で言葉を詰まらせた。1年前の9月18日に天国に旅だった父、今月2日に帰らぬ人になった恩師の上甲監督。2度と会えない2人の顔が頭をよぎったからなのか。「やっと勝つことができました。これから一生懸命投げる姿を見てもらえれば…と思います」。3万人を超えるカープファンが聞き入ったヒーロー・インタビュー。岡山から駆けつけた母明美さん(57)も、8月10日阪神戦以来の勝利を挙げた息子の声に耳を傾けていた。

 4勝目は粘りの勝利だった。「いつも緊張する。まだ感覚が戻ってこなくて。自分の感覚で投げられなくて」という初回、先頭梶谷を四球で歩かせた。2死三塁まで広がったピンチを筒香を左飛に打ち取って切り抜けた。4回無死一塁はグリエルを遊ゴロ併殺。4回までDeNA打線を無安打に封じた。

 だが5回は先頭ブランコに死球を与え、1死一、二塁から下園に左中間に落ちる同点打を浴びた。なおも1死一、二塁。ここで気持ちを切り替えた。「次の1点を取られたくなくて大量失点につながった。1点はOKという気持ちで、いい意味で開き直りました」と6回8失点だった前回12日阪神戦の反省を生かし、最少失点でしのいだ。攻撃でも貢献。3回の先制点は先頭福井の左前打から生まれた。甲子園で3位阪神が着々とリードを広げていたが、負けじと腕を振り、バットも振った。

 04年センバツの優勝投手。2年生で甲子園の頂点に立てた技術、気力、胆力も、生前の上甲監督が鍛えてくれた。ペナントレースの合間をぬって、亡くなる直前の恩師に会いに行った。「苦しそうだったのに、一生懸命に話をしてくれました。会えてよかった」と面影を心に刻んだ。2日の悲報後、やっと天国に贈る1勝をつかんだ。

 「重い試合展開だったね」と息をつきながらも、野村監督にも笑顔が戻った。71勝を挙げた96年以来の大台、シーズン70勝に王手をかけた。【堀まどか】