ベテラン2人の底力を見た。9月16日、エディオンアリーナ大阪。「負ければ引退」を公言していた長谷川穂積(真正)がセミで3階級制覇を果たすと、メインでは山中慎介(帝拳)が最強挑戦者モレノから4度のダウンを奪い、11度目の防衛に成功。劇的な試合の連続に、会場は怒号のような歓声が飛び交う異様な雰囲気に包まれた。

 チケットが発売と同時に完売した注目度の高さとは裏腹に、戦前は試合に対する厳しい見方も強かった。4月には内山高志(36)が6年以上守ってきた王座から陥落したばかり。35歳9カ月の長谷川が敗れてリングから去り、33歳11カ月の山中が4年10カ月保持したベルトを失えば、「世代交代」の声は一気にわき上がっていただろう。だが、そんな中で2人が見せた戦いは、経験と技が凝縮されたすさまじいものだった。

 長谷川は理想とする「打たせずに打つ」スタイルで試合のペースを握るも、9回のピンチでは逆に足を止め、魂の連打。「(ルイスの)攻撃は粗かったし、僕はチャンスだと思った」と試合の局面を見抜き、勝負に出た。山中は、代名詞の「左」を信じ抜いた。ワンツー後の返しの右フックにカウンターを合わされてダウンを取られると、陣営は「ワンツーを打ち抜くことだけを考えろ」と指示。山中も「ずっと信じてきたパンチ。勇気を出していった」。4度のダウンをすべて左ストレートで奪う“らしい”戦いで王座を守った。

 関係者の間で「年間最高試合が2試合続いた」という声が上がるほどの激闘は、同じ30代の選手にも大きな刺激を与えた。IBF世界ライトフライ級王者八重樫は「いろんな世界王者がいるけど、あの2人は特別。自分も試合がしたくなった」。前WBC世界スーパーフェザー級王者三浦は「すごかった。自分も世界王者に返り咲きたい」と力を込め、会場を後にした。

 大阪市内のホテルで行われた一夜明け会見。興行をプロモートした帝拳ジムの本田会長は「ボクシングのすべてが見せられた。若い王者にとっても意味のある2試合だった」と総括し、「年寄り2人だから、ゆっくり休ませてあげて」と冗談交じりに続けた。新たなスター誕生もいいが、歴史の詰まったベテランの意地もいい。ボクシングは面白い。あらためてそう思った1日だった。【奥山将志】