日本ボクシングコミッション(JBC)による処分を巡り、元世界3階級制覇王者亀田興毅氏(35)ら3兄弟側が、JBCと理事長らに総額約6億6400万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審で、東京高裁(石井浩裁判長)は24日、JBC側に総額1億10万円の支払いを命じた。1審判決の4550万円から賠償額を2倍以上に増額し、JBCの控訴を棄却した。一方、JBCは今後の対応について「考えたい」と言うにとどめた。

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20年1月での1審判決に続き、2審でも亀田側の主張が裁判所に認められた。1審よりも賠償金は2倍以上の計約1億円に増額され、判決後に都内で会見した興毅氏は「今日は勝利宣言ということでいいのではないかと思います」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。

問題の発端は13年12月のWBA、IBF世界スーパーフライ級王座統一戦(WBA王者リボリオ・ソリス-IBF王者亀田大毅戦)で、ソリスが前日計量ミスで失格したことによるトラブル(※詳細は経緯を参照)。この対応を巡って、JBCは14年2月、亀田ジムの会長とマネジャーの資格更新を認めなかった。関係者の資格停止でジム運営できず、3兄弟も国内試合ができない状況となった。

判決で、石井裁判長はJBCが「信頼を損ねた」とした上で14年2月、会長とマネジャーに対する処分は「裁量権の逸脱、乱用で違法」とした。また損害額の算定についても1審は3兄弟が14年に1試合ずつ開催したと損害額の算出だったが、高裁では17年まで影響が続いたとして賠償金が増えた。興毅氏は「ボクとしては一定の勝利かなと。裁判は随分長く、さかのぼれば13年12月のソリスの体重超過から始まった。苦しい期間、良くここまで負けずに戦ってこられた」と振り返った。

一方、判決後にJBCの永田有平理事長らも会見し「JBCの主張を申し述べてきたが、受け入れられず残念」と述べ、賠償金の増額に「正直、驚いています」と話した。亀田側による国内で試合不可能となったという主張についてはプロモーター変更、国内ジム移籍で可能だったとし「処分は違法ではないと思っている。選択肢があった」と説明した。

上告については明言せず「じっくり判決文の内容を精査したい。今後の対応を考えたい。国内ボクシング活動を第一に考えたい」と統括機関としての役割も強調していた。

 

◆一般財団法人日本ボクシングコミッション(JBC) 1952年(昭27)4月にプロボクシングの統括組織として設立された。世界タイトルマッチを含む、国内のすべての試合を認定し、運営・管理する。プロボクサーはJBCが実施するプロテストに合格してライセンスを取得しなければならない。クラブオーナーやプロモーター、セコンドなどのライセンスも発行。試合のレフェリーやリングアナウンサー。タイムキーパー、ドクターなどもJBCが派遣している。

 

◇JBCの主な裁判

◆16年2月確定 亀田兄弟の長男興毅氏と三男和毅氏に監禁、どう喝されたとしてJBCの男性職員が計1000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、15年9月に東京地裁は「監禁や暴行はなかった」として請求を棄却。うその事実の公表で名誉が傷ついたとする亀田側の訴えを認め、職員に320万円の支払いを命じた。16年2月に職員が東京高裁への控訴を取り下げたため、確定した。

◆16年6月確定 JBCを懲戒解雇された元事務局長が、地位確認などを求めた訴訟で、最高裁第2小法廷はJBCの上告を退ける決定をした。解雇無効とした2審判決が確定した。確定判決によるとJBCは11年6月、業務上の不手際を理由に元事務局長を降格。12年6月には「別団体を設立しようとした上、ボクサーの個人情報を漏らした」として解雇した。1審東京地裁は、別団体設立や情報漏えいは認められないとして解雇無効と判断。2審東京高裁も支持した。

 

◇亀田兄弟とJBC問題経緯

◆13年12月2日 IBF世界スーパーフライ級王者だった亀田大毅の王座統一戦の相手でWBA同級王者リボリオ・ソリス(ベネズエラ)が計量に失敗。王座を剥奪される。IBF側は「大毅が負けた場合はタイトルは空位(陥落)」と説明した。

◆同3日 試合では、大毅がソリスに1-2の判定負け。当初、敗戦時は王座陥落とされていたが、IBF側は「大毅は勝敗に関係なく王座にとどまる」と発表。

◆同4日 大毅が判定負けでもIBF王座にとどまった裁定に、周囲から異議が噴出。試合を主管したJBCはIBFに質問状をメールで送付。IBF側からは「ルール通り」との説明を受ける。一方で亀田ジム嶋マネジャーは「挑戦者が計量ミスした時点で王者は勝敗に関係なくタイトルを保持する」というIBFの規定について、試合前日のルールミーティングで説明を受けていたと主張。

◆同9日 JBCは倫理委員会を開き、亀田ジム側に「不誠実な対応、事実を歪曲(わいきょく)しようとする人物がいる」と同ジム関係者の聴聞を行う方針を示す。過去に同ジム関係者を処分した経緯もあり「前例をみないような処分を科す考えもある」とした。

◆14年2月7日 JBCは亀田ジムの会長、マネジャーにライセンス更新を認めないとの処分を発表。事実上の資格剥奪で、ジムは活動停止となり、亀田3兄弟は国内で試合することが困難になった。

◆同13日 亀田ジム代理人の北村弁護士がJBCに処分の再審議を請求した。

◆同3月2日 JBCはIBFに対し、大毅の王座を空位とするよう正式に要請した。

◆同19日 大毅が米国合宿に出発前の成田空港で、王座返上の意向を表明。「負けた自分が悪い」と、混乱に一時は引退を考えたことも口にした。

◆15年4月4日 興毅が自身のブログを更新し、JBCについて「個人の感情などで、私物化され、公平性、中立性に欠け、何ていうか、残念の一言」と批判した。

◆16年1月14日 亀田兄弟側が、JBCや理事に、約6億6400万円の損害賠償を求めた訴訟を東京地裁に起こす。

◆20年1月31日 亀田兄弟側が、JBCによる処分を巡り、損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は4550万円の支払いを命じた。JBCは東京高裁に控訴した。