<プロボクシング:WBAスーパーフェザー級タイトルマッチ12回戦>◇11日◇東京ビッグサイト

 不敗の最強王者の誕生だ!

 WBA世界スーパーフェザー級3位の内山高志(30=ワタナベ)が、王者ファン・カルロス・サルガド(25=メキシコ)を12回2分48秒、レフェリーストップで下し、初挑戦で世界王座を奪取した。「KOダイナマイト」の異名を取る強打で、初回から果敢に攻め続け、最終12回にダウンを奪った後にラッシュしてTKO勝ち。不敗対決を制して、デビュー以来の連勝を14(11KO)に伸ばした。アマチュア時代に全日本選手権を3度制した逸材が、30歳でついに世界の頂点に駆け上がった。

 ポイントで勝っているのは知っていた。だが内山の頭には「KO」の2文字しかなかった。最終12回も「チャンスがあれば倒そうと思っていた」。2分すぎ、何度も練習したコンビネーションでついにダウンを奪った。立ち上がった王者に間髪入れず左右のラッシュ。レフェリーがたまらず間に入った。新王者は両手を突き上げ「やっと取れました!」と叫んだ。

 23戦不敗の王者サルガドは、あの2階級制覇王者リナレス(帝拳)を初回KOで沈めて王座を奪取した。その強打者に初回から襲いかかった。左フックにアッパー、右ストレートを放ち続けた。反撃を浴びて3回に鼻から出血させられたが、ひるまなかった。「根性だけは上と思っていた」。「後半勝負」と自分に言い聞かせ、手を緩めず前へ出続けた。8、10回には自慢の右強打が王者のあごにさく裂。場内に「ガチャ」という衝撃音が響き渡った。

 KO率は78・6%。日本人歴代世界王者では3番目。「KOダイナマイト」の異名を持つ。高校時代は無名の存在で、拓大入学時は補欠にも入れず、同級生の荷物持ちをした。この屈辱が原点になった。「今まででいちばん悔しかった。だからめちゃくちゃ練習した」。バンタム級から2階級上のライト級に上げ、徹底してパンチを振り抜くシンプルな練習を続けた。

 自分でも気づかぬうちに強打が備わっていた。ゲームセンターのパンチ力測定器で約700キロをマークし、機械を何台も壊した。成績もついてきた。拓大4年で全日本選手権を初制覇。プロ転向を表明した05年には、その強打に目をつけてK-1も獲得に乗り出したほど。「内山の強さは作られたものではない。目の良さ、体の強さ、あとはまじめな心の強さ」と渡辺会長は言う。

 父との約束もあった。05年11月6日、父行男さんががんで58歳で亡くなった。プロ入り決意時、病と闘っていた父は猛反対した。それを「最後までやり通して世界王者になるから」と説得。「必ず王者になれよ」と許された。プロ3戦目の2週間前、病室で「試合、頑張れよ」とエールを送られた。その数時間後、父は息を引き取った。先月24日、父の墓に手を合わせ「ベルトを持ってくるから」と誓い、引退覚悟でリングに立った。試合後は「ありがとうと言いたい」と、天国の父に感謝した。

 内山は「まだ新米王者。実力は下の方」と謙遜(けんそん)しつつ「とりあえず防衛戦が目標。王者になったことで、自信がつくと思います」。大きなことは言わない。30歳の新王者は、こつこつと勝利だけを重ねていく。【浜本卓也】