<プロボクシング:IBF世界フライ級タイトルマッチ12回戦>◇7日◇大阪・ボディメーカーコロシアム

 元世界2階級王者でIBF世界フライ級8位の井岡一翔(25=井岡)が、日本人最速の3階級制覇に失敗した。同級王者アムナト・ルエンロン(34=タイ)に1-2の判定で敗れ、プロ15戦目でまさかの初黒星を喫した。アマチュア時代の08年に苦杯をなめた相手に再び敗れたが、あくまで3階級制覇を目標に再起を誓った。井岡の戦績は14勝(9KO)1敗となった。

 信じられない光景だった。目の前には、跳びはねて喜ぶ王者アムナトの姿があった。1ー2での判定負け。王者にフルマークをつけたジャッジもいた。父の一法会長に肩をたたかれた井岡は、悔しさをかみしめてリングを下りた。まさかの結果に会場はどよめきに包まれた。

 「今日は運に見放されたという気持ちと、応援してくれた方に期待させた分、がっかりさせて申し訳ないです」

 フライ級へ1階級上げ、日本人最速の3階級制覇を狙った15戦目。3年3カ月ぶりに挑戦者の立場でリングに立ったが、8・8センチも上回るリーチ差を生かして距離を取ってきた相手に対し、踏み込んでも決定打を奪えない。左右のボディーでロープ際へ追い込んでも、アッパーとフックの反撃を浴びた。それでも井岡は攻め、しつこいクリンチで逃げた北京五輪代表でもある王者は、ホールディングで減点1となった。

 「2ポイント勝ったかなと思いましたけど。悪い試合をものにできなかったのは悔しいし、歯がゆい」。アマ時代に敗れた相手にリベンジできず、無念の思いを口にした。

 3階級制覇は、井岡家の悲願だった。叔父弘樹氏が4度挑み、すべて敗れた姿を見て、井岡も育った。減量が1・9キロ楽になった分だけ練習の質も上がり「何事もなく3階級制覇して、1つの通過点、踏み台にしたい」と自信を見せていた。だが、待っていたのは不敗神話の崩壊だった。

 だが顔と体に大きなダメージはない。敗戦から約20分後に会見した井岡は「まだ、これで僕自身終わるつもりもない。終わらないので。また帰って来るので期待してください」と力を込めた。叔父弘樹氏は3階級制覇を逃したが、負けても負けても、はい上がった。幼いころ、その背中を見てきた井岡が、ここであきらめるはずもない。

 一法会長は「再戦してくれるなら再戦する」とアムナトとの再対決も視野に、3階級制覇に再挑戦する意向を示した。「フライ級で体の差や力の差は感じなかった」と、井岡も力負けではないことを強調した。日本のエースに訪れた大きな試練。乗り越えてこそ、真のスターだ。【木村有三】

 ◆井岡一翔(いおか・かずと)1989年(平元)3月24日、大阪・堺市生まれ。大阪・興国高-東農大中退。7戦目で世界王座獲得し、12年6月にWBA&WBCミニマム級王座を統一。同12月にWBA世界ライトフライ級王座を獲得。165センチの右ボクサーファイター。

 ◆井岡の今後

 陣営は今後もフライ級で3階級制覇に挑む意向。IBF王者アムナトとの再戦も視野に入れるが、交渉次第ではWBO、WBA、WBCの他団体王者と対決する可能性もある。再起戦を挟むかは微妙だが、次戦は今秋にも開催されそうだ。

 ◆3階級制覇

 日本人の3階級制覇は、25戦目で達成した亀田興毅(06年WBAライトフライ、09年WBCフライ、10年WBAバンタム)のみ。15戦目の井岡は2人目を狙い、かつ最速で初の無敗での達成を目指したがならなかった。