大混戦となった。上位力士がすべて敗れた結び前の一番で、横綱白鵬(30=宮城野)も大関豪栄道(29)に首投げで敗れて2敗目を喫した。際どい相撲だったが物言いはつかず、敗れた後も1分間も、ぼうぜんと立ち尽くした。

 ぼうぜんと、ぶぜん。どちらの言葉も当てはまる表情で、白鵬は立っていた。結び前にもかかわらず座布団が飛び交い、騒然とした両国国技館。審判に目を向けるが物言いはつかない。勝ち名乗りを受ける豪栄道を見つめ続ける。負けた力士としての「礼」ができないほど、その場に立ち尽くした。

 土俵を下りても信じられない顔で、力水をつける位置に立ったまま。控えに座りかけたが、再び戻り、そのまま1分間、納得がいかない表情でいた。結びの一番の祈(き)が入ってやっと座ったが、その態度に、館内用のFMラジオで解説した春日野親方(元関脇栃乃和歌)は「なんで座らないの?」と疑問を呈した。審判員からは「あれって抗議の意味なのかな」「早く座れと言おうかと思った」との声も出た。それほど異例の姿だった。

 1敗で魁聖と並び、2敗で稀勢の里、高安が追う状況で迎えたこの日。取組前に3人が相次いで敗れた。そこに気が緩んだのか。踏み込まずにもろ手で立つと、左からいなして懐に入る。左すくい投げに出たが、そこで豪栄道の捨て身の首投げを食らった。自らの右肘が、先についていた。

 伊勢ケ浜審判部長(元横綱旭富士)は「(豪栄道の体が)1本、乗っかっていた。肘がついたとかではない」と、完全に白鵬の負けだと明言した。NHKの大相撲中継で解説した北の富士勝昭氏(元横綱)は、かつての白鵬の発言を逆手に取った。「物言いがついたとしても、確認程度でしょう。これはもう、子供でも分かる」。

 支度部屋。敗れた悔しさか、それとも判定への不満を口にするまいと意識したためか、白鵬は今場所初めて報道陣に背を向けた。車に乗り込むまでの廊下では無言のまま、いつもより足早に歩いた。抜け出すはずが、まさかの大混戦を演出してしまった。夏が、荒れている。【今村健人】

 ◆白鵬の「子供でも分かる」発言 史上最多33度目優勝を飾った初場所の一夜明け会見で、同体取り直しとなった同13日目の稀勢の里戦について言及。「勝ってる相撲ですよ。子供が見ても分かるような相撲。なぜ、取り直しになったのか」などと審判部を批判。北の湖理事長が、白鵬の師匠宮城野親方(元前頭竹葉山)を通じて厳重注意する騒動となった。