大相撲の元関脇で西前頭11枚目の旭天鵬(40=友綱)が27日、名古屋市内で現役引退を表明した。名古屋場所で3勝12敗に終わり、十両陥落が確実になり決断。師匠の友綱親方(元関脇魁輝)も同席の会見では、支えてくれた家族の話題になると涙もこぼした。12年夏場所で昭和以降最年長の37歳8カ月で優勝、歴代1位の幕内1470回出場を誇る「角界のレジェンド」。今後は部屋付き親方の年寄「大島」として後進を指導する。

 涼しげな水色の着物で現れた旭天鵬の顔は、すっきりしていた。「今の気持ちはすごく穏やかというか、すごく晴れやか」。大きな決断を下した40歳は、笑みをこぼしてひと息ついた。

 引退を決意したのは、安美錦に敗れた14日目。十両陥落が決定的になる11敗目に「そこで(気持ちが)切れましたね」と明かした。「我々は白黒で左右される勝負の世界。年齢がいくことで、気持ちのダメージが大きいし。負けた時とか本当に力がなくなったんじゃないか、という時があった」。黒星をバネに白星を奪い返した以前の気力は、もう残っていなかった。

 モンゴル人力士の草分けとして、道を切り開いてきた。92年2月、17歳で希望に胸を膨らませて来日。「不安なんてない。興味が勝ってた。車が多いし、人も多い。すべてに、きょとんとしたな」。だが、当初は特殊な相撲社会に戸惑いだらけ。「なんだ、ここはって思った。朝から裸。まわしをつけて、どうしたらいいのか。言葉も分からないし」。苦労を乗り越え、続けてきた23年半の土俵生活。この日「相撲は、僕の人生のすべて」と言った。

 だからこそ、喜怒哀楽を共にして、支えになった家族の話になると、感情を抑えきれなかった。場所中は無邪気に「パパ弱いね」と言っていた長男蓮くん(3)が、千秋楽を見て「強い」とほれ直した話を聞くと「うれしかった」と涙腺が緩み出す。続けて、長女柚希ちゃん(6)が引退の予感を抱いてたことを振られると、涙があふれ出した。

 今後は、部屋付きの大島親方として指導に当たる。「後輩たちにも、精いっぱい声援をもらえるような力士になってほしい。みんなに愛される人を育てたい」。将来的には独立して、自らの部屋を持つ夢もある。「それを目標に歩んでいく」。開拓者でもある角界のレジェンドは、新たな道を進み始める。【木村有三】