元幕内誉富士の楯山親方(36=伊勢ケ浜)が、断髪式の冒頭で振り付きの歌を披露し、観客を驚かせた。

19日に東京・両国国技館で行った断髪式でのこと。本人が紋付き羽織はかまの正装で土俵に上がり、ステップを踏みながら、吉幾三のヒット曲「俺はぜったい!プレスリー」の替え歌「俺はぜったい!誉富士」を歌った。

吉幾三も楯山親方も青森出身。津軽弁をまじえながらコミカルに歌う曲は、実は楯山親方にとっての定番ネタだ。

青森・五所川原農林高時代、先輩が歌っていたのを聴き「これは面白い!」と感じ、近畿大学に入ってから持ちネタにした。相撲界に入ってからも、千秋楽パーティーなどで何度も披露してきた。

「ほかの力士って、みんないい感じの曲(バラードなど)を歌うじゃないですか。何か盛り上がるのを誰かが歌わなきゃとなった時、自分が歌うことになりますね」

正確なデータは残っていないが、断髪式で自ら美声を披露したのは元横綱北の富士や元大関増位山がいる。式の冒頭で歌ったのは、楯山親方が初めてかもしれない。

断髪式は、まげを切り落とした後の整髪にも時間を要する。もともと冒頭に予定していた三味線の余興などを整髪中に披露してもらうことになり、式の最初の出しものがなくなってしまった。すると師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)から「それなら、お前が歌ったらいいじゃないか」と提案され、まさかの歌スタートが決まったという。

「何人かからは、『度肝を抜かれた』と言われました。断髪している時、小学校の時の師匠には『俺の十八番を取られたわ』と言われました。青森あるあるかもしれません」

今後はしばらく、「俺はぜったい!誉富士」は封印することになるかもしれない。「(打ち上げなどで)歌えと言われれば歌うかもしれませんが、親方は歌わないでしょう。基本は力士ですから」。

楯山親方は歌もうまいが、実は指導がうまい。現役時代から若い衆に対し、なぜそういう動きをするのか論理立てて説明している姿を何度も見かけた。かと思えば、ぶつかり稽古では心を鬼にして胸を出す場面もあった。「若い子たちを強くできればと思いますね。ただ、それだけです」。

「俺はぜったい!プレスリー」の歌詞には、歌がうまく器量もいいから村を出て行くべきだと周囲に言われる場面がある。これは絶対、誉富士-。これからは指導力で部屋を盛り立てていくことになりそうだ。【佐々木一郎】