NHK大河ドラマ「黄金の日日」や映画「影武者」などで知られ、10年に俳優を引退していた根津甚八さん(本名・透=とおる)が29日昼、肺炎のため、都内の病院で死去した。69歳だった。体調悪化や人身事故などが重なり、うつ病に悩まされた。憂いのある演技と独特の存在感で多くの観客や視聴者を魅了した。葬儀・告別式は近親者で行う。

 関係者によると、根津さんは数カ月前から体調を崩して入院していた。所属事務所に先月、仁香(じんか)夫人から「体調が芳しくない」と連絡があった。容体はかなり悪かった。今月1日に69歳の誕生日を迎えたばかりだった。

 15年ほど前から闘病を続けていた。02年、右目下直筋肥大で、ものが二重に見えてしまう複視など症状に悩まされ、手術を繰り返した。04年に都内の交差点で車を運転中、自転車に乗った男性をはねて死亡させる事故を起こした。その後、体調が悪化して芸能活動をしばらく休止した。復帰後もヘルニア手術の後遺症でつえを手放せなくなり、満足な仕事ができなかった。

 俳優業に強い執着と愛着を持っていた根津さんは09年、度重なる闘病などから、うつ病を患った。夫人は後に当時を「笑えないし、眠れない。体温調節もできなかった」と出演番組で明かした。投薬治療も始めたが好転しなかった。医師の薦めで日記もつけた。その中で復帰への強い意欲も示したが、「なぜ次々と試練が降り掛かる」「ほんの少しでも希望が欲しい」とつづり、「もう自分の力ではどうにもできない」など無力感や「ろくなことを考えない」と自己嫌悪も記していた。俳優生活40周年を迎えた10年、満足な演技ができないとして、夫人を通じて俳優引退を発表した。その後、自宅で療養を続けていた。

 69年に唐十郎氏の劇団「状況劇場」に入って俳優業をスタート。78年NHK大河ドラマ「黄金の日日」で松本幸四郎(当時市川染五郎)演じる主人公・助佐の友人、石川五右衛門を演じてお茶の間にその名が知れ渡った。ワイルドな風貌やニヒルで憂いのある演技、独特の存在感などが高く評価され、映画「影武者」「乱」など黒沢明監督作品にも出演し、日本を代表する名脇役として活躍した。

 昨年は、多くの作品に出演した石井隆監督の熱意に応える形で、映画「GONIN サーガ」に出演したが、あくまでも1度きりの復帰だった。4日間の撮影を終えると「天が再び機会を与えてくれるものなら、仕事を続けたかった思いももちろんある。でも今回やり遂げたことで、未練を捨てて、終止符を打てたと思う」とコメント。俳優復帰は、かなわないと自覚していた。

 ◆根津甚八(ねづ・じんぱち)1947年(昭22)12月1日、山梨県生まれ。独協大中退後の69年に唐十郎主宰の状況劇場に入り、70年に舞台「ジョン・シルバー 愛の乞食編」でデビュー。78年NHK大河ドラマ「黄金の日日」の石川五右衛門役で注目された。その後、「影武者」「乱」など黒沢明監督作品や、高倉健主演「駅 STATION」などの映画に出演。82年映画「さらば愛しき大地」で日本アカデミー賞主演男優賞。右目下直筋肥大の発症や、うつ病などもあって10年に俳優を引退。172センチ。