音楽家長渕剛(54)が16日、宮城県石巻市、東松島市を拠点に救援活動する自衛隊などを慰問した。航空自衛隊松島基地の飛行機の格納倉庫内で行ったライブで6曲を披露。長渕から「被災者のために立ち上がった日本人がいた。抱き締めたくなった」と熱いメッセージを受け、約1500人の隊員は、肩を組んで声を合わせ、復興に向けて気持ちを新たにした。

 剛コールが鳴り響く中、長渕は飛行機整備用の台で作られたステージに上がり、叫んだ。「みなさんに、会いたくて会いたくて、たまらなかったよ~」。続けて、抱えていた隊員への思いを口にした。「この国が絶望に伏して、もう日本はダメだと思ったけど、みんなの勇姿…そこに日本があった。日本の誇り、僕の大事な大事な誇りです」。登場前から興奮していた隊員のボルテージはさらに上がり、目に涙を浮かべながら「ツヨシー」「ありがとー」と繰り返した。

 長渕いわく、震災後に「歌なんか歌っている場合じゃねえよ」と、うちひしがれる自分を救ってくれたのが、自衛隊の姿だった。行方不明者の捜索、物資の供給、山のようながれきの撤去…。震災で家族を失った隊員も、目の前の任務を遂行していた。全ては日本の、国民のために。その姿に長渕は「たまらなくいとおしくなって、抱き締めたい」と思い、東京から駆け付けた。

 その思いを込めて、ギターを手に「とんぼ」「乾杯」など6曲を歌った。隊員は身を乗り出して拳を突き上げ、肩を組んで左右に体を揺らした。沖縄第5高射群の山本祐敬士長(28)は「強い気持ちを持って沖縄からここに来ましたが、今日の出来事で自分が出来る極限が、伸びた感じがします」と言った。大の長渕ファンで、長渕がステージから投げたハーモニカをキャッチ。「これを見れば、一生忘れずに思い出すことができます」と話した。

 長渕は石巻市総合運動公園でも、3連隊を慰問した。迷彩柄の上着に袖を通し、隊員から写真を交えて現状の説明を受けた。第44連隊普通科連隊長の森脇良尚1等陸佐(46)は「温かい手だった。また頑張ろうと思いました」と感激した。

 長渕は「歌は…人の心をつなぐんだと痛感した。歌は絶対に必要。確信した」と実感を込めた。そして「心の復活をするには、僕らは音楽しかない。いい歌を書いて、なるべく東北に意識を向けて、気持ちと行動を一緒にしてみようと思う」と音楽家としての覚悟を口にした。【今井恵太】