第26回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原裕次郎記念館協賛)が9日、決定した。

 松田龍平(30)が初の主演男優賞に輝いた。「舟を編む」で辞書作りに黙々と取り組む編集者を演じた。地味な役柄に不思議な魅力を与える演技力と存在感が際立っていた。デビューから15年。今や映画界に欠かせない俳優として確固たる地位を築いた。畏敬の念ばかりが強かった父の故松田優作さんに対する思いも徐々に変化しているという。

 あまり感情を表に出さない印象があるが喜びの言葉がこぼれ落ちた。「素直にうれしいですね」。

 地味な仕事に全てをささげる内気な編集者役。表情も変えず、感情をむき出しにすることもない。主人公としては、どこか物足りないと言われそうな難役だ。最近は「探偵はBARにいる」シリーズなど主人公の相手役で独特の味わいを発揮しているが、主演を務めることで自分の中に変化を感じた。「(以前は演技について)監督がOKなら、それでいいというところがあったが、疑問に思ったことを監督に伝えないといけないと思った。後悔したくない。思うところをやり切らないと。俳優として譲れないのは役を演じ、世界を成立させることですから」。地味な設定の主人公を、エンディングまで目の離せない不思議な魅力を持つ男として表現してみせた。

 今年はNHK連続テレビ小説「あまちゃん」のミズタクこと水口琢麿役でも注目された。「すごく新鮮でした」。アイドルを目指すアキたちを支えたマネジャー役。「役としてそうですが、自分自身も(アキたちの)ファンになっていくのが面白かった」。

 15歳でデビューした。故大島渚監督に抜てきされ、「御法度」で美少年剣士を演じた。その後も映画を中心に活動したが、強烈な個性と存在感でファンを魅了し、演技に執念も感じさせた父親とは違い、穏やかなたたずまいと感覚的な天然素材の俳優として見られがちだった。父は6歳の時に他界している。俳優の道に進み出した頃は「父親の存在が大きいので真逆に生きたい、みたいなことだけを考えていた気がする。父親がいたら、殴られるだろうなと思っていた」。

 キャリアを積み、思いも変化してきた。「いなくなった年(39歳)まで、あと9年しかないと意識する年齢になった。結局父親が通ってきた道をどこか通っているなと思えてきた。6歳からコミュニケーションしていない、目に見えない父と、俳優をやることでコミュニケーションを取っている感じ。それは特別です」。

 「優作の息子」ではなく「俳優松田龍平」として認められた主演男優賞だが「30歳。デビュー15年。来年は父の没後25年。タイミングが重なった。(受賞は)力になる。父親も喜んでくれると思う」と縁も感じている。父の息吹を背に感じ、俳優道を歩き続ける。【村上幸将】

 ◆松田龍平(まつだ・りゅうへい)1983年(昭58)5月9日、東京都生まれ。高校1年で大島渚監督の99年映画「御法度」で主演として映画デビュー。同作で日本アカデミー賞、ブルーリボン賞など新人賞を総なめ。映画は「青い春」「ナイン・ソウルズ」「劔岳

 点の記」「探偵はBARにいる」「北のカナリアたち」などに出演。今年はNHK連続テレビ小説「あまちゃん」でも話題に。09年1月に太田莉菜と結婚、同7月に長女誕生。183センチ。血液型B。

 ◆舟を編む

 定年退職する編集者荒木(小林薫)に代わり、営業部内で変人扱いの馬締(松田)が後任で加わった玄武書房辞書編集部は監修の松本(加藤剛)を軸に新辞書「大渡海」編集に取りかかる。略語、若者言葉なども取り入れ新たな辞書を目指す中、馬締は大家の孫で板前修業中の香具矢(宮崎あおい)に一目ぼれ。そして「恋」の語釈を作るよう命じられる。

 ◆主演男優賞・選考経過

 松田龍平が決選投票で福山雅治を僅差で破った。「格好悪さの格好良さを演じた。アクションも披露する『探偵はBARにいる2』の高田と、運動神経がなさそうな馬締と走り方が違った。すごい」(石飛徳樹氏)「オーラを消し、三枚目を演じている。主人公ながら地味。でも自分の個性、タイプをうまく作りかえているところを買いたい」(渡辺武信氏)と演技力が絶賛された。