第26回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原裕次郎記念館協賛)が9日、決定した。

 出生時の子供の取り違えを題材にした映画「そして父になる」が、監督賞と助演男優賞の2部門を受賞した。同作品はカンヌ映画祭で審査員賞も受賞しているが、是枝裕和監督(51)は国内で認められる喜びをあらためてかみしめた。助演男優賞を獲得したリリー・フランキー(50)は今後、本業というイラストレーターや、俳優業にとどまらない活躍を目指すという。

 助演男優賞受賞の感想を聞かれるとリリー・フランキーは「自分がもらうことに少なからず抵抗がありますね。自分のことを役者と思っていないので」と戸惑いの表情を見せた。

 「そして父になる」では小さな電器店を営み、温かい家庭を築く父親を演じた。力の抜け具合が絶妙だった。「撮影をしていた印象がないんです。是枝さんの撮り方は『ここがセットです』『はい、スタート、カットです』というやり方ではない。子供たちと本気で遊んで、生意気なこと言ったら、おばけの話をして泣かせたりしました」と自然体で撮ったと話す。

 もう1つの対象作「凶悪」では、金のためなら人を殺すのもいとわない殺人事件の首謀者役。「いい人ではないんで『凶悪』のほうが自分に近いかも」。

 08年の主演作「ぐるりのこと。」でブルーリボン賞新人賞を受賞。当時「これからも積極的に役者をやるつもりはない」と言っていたが、今も出演依頼は絶えない。それでも俳優業への興味は以前とさほど変わっておらず、確定申告は「イラストレーター」として申告する。「お芝居うまいねって言われることはあっても、絵がうまいねって言われることはないんです。抜けてた方がいいのかも」と苦笑いする。

 先月迎えた50歳の誕生日は「そして-」で共演した福山雅治とタモリに祝ってもらった。「50歳になったので何か違うことをやってみたい」。さまざまな分野で活動するリリーの「違うこと」が何になるのか、本当に楽しみだ。【小林千穂】

 ◆リリー・フランキー

 本名・中川雅也。1963年(昭38)11月4日、福岡県生まれ。武蔵野美術大学卒業。20代のころからイラストレーター、文筆業、バンド、ラジオなどで活動。05年発表の小説「東京タワー

 ~オカンとボクと、時々、オトン~」は映画、ドラマ、舞台になった。初出演映画は04年「盲獣VS一寸法師」。ほかに「色即ぜねれいしょん」「モテキ」など。血液型B。

 ◆そして父になる

 人生の勝ち組と思って生きてきた野々宮良多(福山)は息子慶多(二宮慶多)が私立小学校に合格後、妻みどり(尾野真千子)が慶多を出産した病院から子供を取り違えた可能性があると知らされる。検査の結果、息子でないと判明。本当の息子琉晴(黄升■)を育ててきた斎木雄大(リリー・フランキー)ゆかり(真木よう子)夫妻と話し合いを続ける中、親子の絆について考え続ける。

 ◆凶悪

 獄中の死刑囚(ピエール滝)の告白を受け、身の毛もよだつ殺人事件の真相を追う雑誌記者(山田孝之)の姿を描く。告白の内容は、自分の余罪を明かした上で、仲間内で先生と呼ばれていた男(リリー・フランキー)が全ての事件の首謀者だと告発する衝撃的なものだった。金のために殺人を重ねた事件について取材を進めていくうちに、使命感と狂気の間で揺れ動くようになってしまう。白石和弥監督。

 ◆助演男優賞・選考経過

 リリー・フランキーが他候補を圧倒した。「『そして-』のダメそうな電器屋のオヤジと『凶悪』の殺人犯を同じ顔をしてやっている」(渡辺武信氏)「芝居をしている感じがしない。何もしないで出来てしまう人。恐ろしい」(品田雄吉氏)とつかみどころのない独自の存在感に恐怖を感じる選考委員もいた。※■は火ヘンに玄