2020年東京五輪の公式エンブレムを担当したアートディレクター佐野研二郎氏(43)のデザインをめぐる問題が拡大している。

 サントリービールが13日、キャンペーンのプレゼント賞品としていた「佐野研二郎デザイン」のトートバックの中で、一部デザインを、佐野氏側の要望として取り下げた。他のデザインの「盗用」ではないかとの指摘が、ネットで広がっていた中での対応。翌14日、佐野氏がコメントを発表。共同で制作に当たった複数のデザイナーが、第三者の作品を描き写していたのだと、認めた。

 発表されたコメントで、違和感を感じた点があった。キャンペーン賞品のデザインについて釈明した後、五輪エンブレムに言及。「模倣は一切ないとしていたことに関しては、先日(今月5日)の会見の通り」「私が個人で応募したもの。今回の制作過程とは全く異なる」と、わざわざ説明していた。

 五輪エンブレムと、大手ビールメーカーのキャンペーン商品。位置づけはもちろん違うが、見る側、受け取る側からすれば、どちらも佐野氏のデザインだ。賞品の制作過程では、佐野氏が管理し、他のデザイナーが業務をサポートする「流れ作業」が存在したようだが、応募サイトには「佐野研二郎デザイン」と銘打たれていたのも事実だ。

 この説明だと、賞品のデザインに関しては、手を抜いているような印象を与えかねない。でも、五輪エンブレムでは、そんなことは絶対しませんー。結果的に、自身の名前で発表しているデザインを「区別」するような説明にも聞こえ、ストンと納得できなかった。

 五輪エンブレムに対し、ベルギーの劇場ロゴを製作したデザイナーが「盗用」と指摘したことを受けた、今月5日の佐野さんの会見を取材した。「デザインに対する考えが全く違うので、(ロゴとは)正直まったく似ていない」と強調した佐野氏は、「アルファベットを基軸にすると、どうしても類似するものがある」とも話していた。ただ、自分の作品こそがオリジナルで、批判は当たらないー。そんな、批判を寄せ付けない「強硬」な空気も漂った、約1時間の会見だった。

 自身のデザインには、とことんプライドを持っていることがうかがえた。だからこそ、今回起きたキャンペーン賞品問題の「釈明」には、違和感を持ってしまうのだ。

 佐野氏は会見の席上、「ベルギーのデザイナーに自分の考えを伝えれば、理解してもらえると思った」とも話したが、先方は先日、国際オリンピック委員会(IOC)に使用差し止めを求めて提訴に踏み切った。問題のエンブレムはすでに、政府関係者の名刺にも印刷され、「見切り発車」的に使用されている。提訴となり、イメージに「傷」がつくことはないだろうか。

 「『変えられない』と突っ走ったとしても、わだかまりを持つ人が1人でもいるデザインが、平和の祭典と呼ばれる五輪のエンブレムにふさわしいのだろうか」。国際的にも活躍するデザイン関係者に今回の問題について取材すると、開口一番、そんな答えが返ってきた。世界中の人が目にする五輪エンブレムだけに、強硬な主張だけでなく、「落としどころ」の模索も必要になるのではないか。

 14日発表されたコメントの最後に、こんな記述もあった。「今回頂戴したご批判を忘れず、デザイナーとしての今後の仕事や作品を通じて、皆さまの期待に全力をあげて応えていく」。

 新国立競技場の計画見直しに関する責任の所在を問われた安倍晋三首相が国会で、「五輪を成功させることで責任を果たしていきたい」と答えたことに、どこか似ているような気がした。責任は将来ではなく、その都度都度で、示していかなければならないと思うのだが。