派閥の政治資金パーティー裏金事件や、和歌山県連のセクシー懇親会問題などを抱え、年に1度の結束確認の場にもかかわらず、まったく盛り上がらずに終わった3月17日の自民党大会。こちらも年に1度の党大会の総裁演説を、裏金問題の謝罪から始めなくてはならなかった岸田文雄首相が、「ドヤ顔」風の表情で語ってみせたのが、「政治刷新車座対話」の開催。自身や自民党幹部らが全国を回って、党員や党友、国民の声を聴くための全国行脚で、まず22日に茂木敏充幹事長が能登半島地震に見舞われた石川県を訪れ、地元県議らと意見交換を行った。
ただ、「まず最初に身内から話を聴いてどうする」(野党関係者)の指摘があるとおり、裏金問題などで党に向けられる厳しい視線は、なにも自民党員からのものだけではない。一般の国民から話を聴いてこそ、対話の効果も出てくるのではないかと思うのだが。何事も最初が肝心という中で、肝心な第1弾の対話の相手を「手近な存在」ですませてしまった感は否めない。「なぜ第1弾が総裁でなく幹事長なのか」と、人選へのナゾも耳にした。岸田首相によく指摘される「とりあえずやってます感」が、今回もにじんでしまったような気がしてならない。
岸田首相がこだわる「車座対話」は、自民党にとっては、苦しい経験から生まれたシステムだ。2009年衆院選で当時の民主党に敗れて野党に転落した際、当時の谷垣禎一総裁が始めた「ふるさと対話集会」。民主党に政権を奪われ、反転攻勢と党の再生を目指すためには、まず地域に根ざした草の根の活動を重んじようと、全国のすみずみを回って車座で国民の話を聞くスタイル。谷垣氏の肝いりだった。
2012年に政権を奪還した後も「野党時代のくやしさを忘れないため」と第2次安倍政権に引き継がれ、菅政権時代の2020年10月には、通算1000回の節目を迎えた。岸田政権でも続けられ、賃上げや中小企業対策、子育てなどをテーマにした車座対話は2021年10月の首相就任後、数十回に及んでいる。
党がマイナスからスタートする中で生まれた車座対話ではあるが、積み重ねられ、引き継がれてきたものだけに、思い入れを持っている自民党関係者も少なくない。そのため「裏金問題の言い訳のような場ではなく、もっと実のあるテーマでやるものなのに…」との嘆きを耳にした。もはやだれも信じなくなった岸田首相の「聞く力」を、首相自身はイメージしたのかもしれないが、裏金問題の納得できる説明がまったくなされていない中、いまさら国民に何を聞いて、そもそもそれを本当に生かすのかという疑問も当然わく。
裏金事件の説明に、車座対話を持ち出した対応は、谷垣氏が始めた当時の目的からはかけ離れてしまっているように感じる。
政権を失い、野党自民党の総裁となった谷垣氏の総裁選でのキャッチフレーズは「みんなでやろうぜ」。野党に転落し所属議員も3分の1近くに激減した中、一意結束で政権復帰を目指そうという呼びかけだった。国民にそっぽを向かれたことを教訓に新しい支持層をつかもうと、社会科見学のような取り組み「みんなで行こうZE(ぜ)」も始め、当時1年生議員だった小泉進次郎元環境相が地元の海上自衛隊横須賀基地を案内したり、今は東京都知事の小池百合子氏が東京・池袋での「芸術文化都市ツアー」でアニメ文化を紹介したり、参加者とラーメンをすすったこともある。
野党だからこそできたことでもあったが、当時の取材を通じて、内容は別にしてもそこには少なからず国民とまじわることで何かを、血肉にしようとする明確な「目的」があったように思う。
一方で今回の裏金問題での車座対話。そこにはどんな目的があり、そしてどんな結果を導くためなの場なのだろうか。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)