金正男氏殺害を受け、同氏のファミリーの身辺にも「暗殺」の危険が迫っている。韓国メディアによると、正男氏の長男で、現在マカオに滞在するキム・ハンソル氏(22)が次のターゲットになるとの見方があるという。一方、正男氏殺害を指示したとされる金正恩朝鮮労働党委員長は、もう1人の実兄、金正哲(キム・ジョンチョル)氏も、北朝鮮で「幽閉」。権力を握る自身以外は、兄弟でも容赦しない。正恩氏の残忍さが浮き彫りになった。

 朝鮮日報など韓国メディアによると、正男氏の毒殺を受けて、正男氏の家族にも暗殺の危機が迫っているという。特に、正男氏の息子で、海外生活が長いハンソル氏が、次の暗殺対象になる可能性が出ている。

 ハンソル氏は平壌で生まれ、マカオに移住。ボスニア・ヘルツェコビナのインターナショナルスクールで学び、オランド大統領ら有力政治家を輩出した、フランスの名門・パリ政治学院に入学。警護付きで通学し、昨年卒業した。

 ボスニア滞在中の12年にはフィンランドのテレビ局の取材に、英語で「祖父(金正日氏)やおじ(正恩氏)には会ったことがない」「北朝鮮の人々の暮らしを楽にしたい」と答えた。

 ハンソル氏は大学卒業後、マカオに戻った。韓国国家情報院によると、現在もマカオにいるというが、今後命の危険にさらされる恐れもある。13年末に張成沢氏が殺害された際も、ハンソル氏は父とともに「暗殺対象」となり、当時生活していたパリの寄宿舎から姿が消えたと伝えられた。

 正男氏には、ハンソル氏の母とは別の夫人と子供もいるとされる。正男氏の妻が、遺体引き取りを申し出たとの情報もある。

 一方、聯合ニュースによると、正恩氏の実兄、正哲氏は現在、北朝鮮で生活しているとされるが、弟に「命乞い」の手紙を書いた上で、平壌のホテルに「幽閉」状態とされる。行動は監視され、動向はすべて正恩氏に報告されている。

 正哲氏も正男氏同様、一時、後継者候補に挙げられたが、父は「性格が弱い」と指摘したとされる。15年には革ジャン姿で恋人とロンドンを訪れ、歌手エリック・クラプトンの公演を楽しむ姿が報じられた。

 おじまで粛清した正恩氏が信頼するのは、妹の金与正氏、異母姉の金雪松氏ら女性だけ。ロイヤルファミリーでも自身の意向に背くと、許さないといわれる。毒殺された正男氏も、かつて世襲批判を口にした。正恩政権発足後、北朝鮮では幹部の粛清が相次ぎ、15年だけで約60人。「恐怖政治」はいつまで続くのか。