歴史的一戦の裏側に迫る「G1ヒストリア」の番外編<2>は、01年の香港カップを制したアグネスデジタルを取り上げる。ダートの短距離から芝の中距離までこなしたオールラウンダー。01年京王杯SCから最後の03年有馬記念まで16戦に騎乗した四位洋文元騎手(51=現調教師)が当時を振り返る。

01年12月、香港カップを制したアグネスデジタルとガッツポーズする四位洋文騎手
01年12月、香港カップを制したアグネスデジタルとガッツポーズする四位洋文騎手

01年12月16日のシャティン競馬場は日本馬が大活躍していた。香港ヴァーズをステイゴールド、香港マイルをエイシンプレストンが勝利。「そりゃプレッシャーはあったよ」。アグネスデジタルにまたがっていた四位師にも静かな重圧がかかっていた。それでも、コース形態を分析した冷静な手綱さばきが光った。

シャティンの芝2000メートルはスタート直後に1コーナーが控えるコース。14頭立ての12番枠から抜群のスタートを決めると、差しを得意としていたデジタルを果敢に先行させた。 「中山1800メートルのイメージ。いいスタートを切らないと厳しい。攻めて勝負に行ったレースだったね」

中団の外目で運び、4コーナーでは2番手へ。直線では早めに抜け出し、長く長く脚を伸ばした。内からデットーリ騎手騎乗のトボックが迫る。「頼む!」。鞍上の鼓舞に応えて、後続をしのぎきった。

「性格は穏やかだったね。普段は競馬に行ったら、返し馬でもやる気がなく、のんびりと走っちゃう。そういうタイプ。でも香港ではやる気を出していたね」。他の日本馬が結果を残していたことが、彼の闘志に火をつけたのだろうか。

天皇賞・秋、香港Cと芝のG1を連勝したアグネスデジタルは、この後ダート1600メートルのフェブラリーSに進んで快勝。ダート1200メートルから芝2000メートルまでこなすオールラウンダーぶりを見せつけた。一般的にはダート馬は少し歩様が硬いとか、距離が持つ馬はトビが大きいとか、馬体や走り方に馬の適性が表れる。

そんな常識から飛び出たデジタルはどうだったのだろうか。

「走りはいたって普通。乗った感じはどっちでもなかった。本当に不思議な馬だった」

四位師は、そう振り返った。【下村琴葉】