日本中から声が上がったはずだ。フォーエバーヤング(牡、矢作)がダートの本場、米国競馬の最高峰に確かに手をかけた。結果はわずかに及ばず3着。しかし、日本調教馬として強烈な、鮮烈なインパクトを残した。

スタートは少し遅れた。周りの馬も速く、道中は馬群の後方から5、6番手の位置。ライバルたちのキックバックを受ける厳しいポジションだった。しかし、向正面に入ったあたりで、坂井瑠星騎手が冷静に馬群の外へ導く。3コーナーからまくり気味に上昇し、4コーナーでは泥だらけの顔で先行集団の外に並びかけた。

運命の直線。すぐ外のシエラレオーネと馬体をぶつけながら、激しくたたき合った。1歩も引かない、譲らない。好位から先に抜け出していたミスティックダンを追って、2頭で激しく追い込んだ。届く、夢に-。3頭が鼻を並べたところがゴール。結果は3着。歴史を覆すことはできなかったが、誰もがその走りに心を打たれた。

レース後のインタビュー冒頭、矢作師は言葉に詰まった。そして第一声。「ただひと言、悔しいです」。海外G1・8勝を数える「世界のYAHAGI」。健闘では満足できなかった。ただ「馬はすばらしかった。慣れない環境のなか、よく頑張ってくれた。ただ、あそこまでいったので勝ちたかった」と愛馬の走りをたたえ、だからこそ悔しがった。

坂井騎手も「悔しいのひと言です」と師と同じ気持ちを伝えた。「なるべくポジションを取りたかったんですが、周りの馬が速かった。前に入られて後ろになりましたが、キックバックも大丈夫でした。外に切り替えて、3~4角の手応えは勝てるんじゃないかと。最後は同じ脚色になりましたが、よく頑張ってくれました」と相棒に感謝した。自身初のケンタッキーダービー騎乗。「すばらしい競馬場で、こんなに歓声を受けたのも初めてでした。ただ、あそこまでいったら、勝たなければいけなかったです」と3着という結果には正面から向き合った。

日本人騎手の木村和士騎手とともに参戦したテーオーパスワード(牡、高柳大)も道中は後方。しかし、直線はフォーエバーヤングを追うように脚を伸ばし、5着に入った。2頭とも勝利には届かなかった。しかし、3着と5着。20頭立ての大激戦で、確かな歴史を刻んだ。

日本馬は95年スキーキャプテン(14着)の初挑戦から過去6頭(地方競馬所属馬含む)が挑戦してきた。これまでの最高着順は19年マスターフェンサーと23年デルマソトガケの6着。悲願は持ち越しとなったが、夢への距離は確実に縮まった。

勝ったのは、B・ヘルナンデスJr.騎手の米国馬ミスティックダン(牡、K・マクピーク)。2着も米国のシエラレオーネ。

発売金額は15億4932万5400円。デルマソトガケ(6着)、マンダリンヒーロー(12着)が参戦した昨年(同9億2689万2600円。返還あり)を大きく上回り、早朝の発走ながら、今年も注目度が高かったことが表れていた。

◆チャーチルダウンズ競馬場 ケンタッキー州ルイビル南部にあるアメリカでも有数の競馬場。楕円形の左回りコースで、ほぼ平たん。内側に1408メートルの芝コース、外側に1609メートルのダートコースがあり、直線は約376メートルある。ケンタッキーダービーが行われるダート2000メートルはスタンド前から発走し、トラックを1周する。日本のダートは砂だが、アメリカは土で、馬場の質がまったく異なる。1973年に名馬セクレタリアトが計時した1分59秒40のレコードは今もなお、破られていない。

【イラスト】2024ケンタッキーダービーの出馬表
【イラスト】2024ケンタッキーダービーの出馬表