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【柔道女子】金メダル最有力候補 48キロ級の角田夏実 ともえ投げは「好きな人」

柔道女子48キロ級の角田夏実（31）＝ＳＢＣ湘南美容クリニック＝は2021年から世界選手権を3連覇し、金メダル最有力候補としてパリ五輪に臨む。20代半ばまで無名だった存在がトップ選手へと道を切り開けたのは、ともえ投げが大きい。膝の負傷をきっかけに取り組み、今や「好きな人」とまで表現する。

背中から真後ろに倒れつつ、相手を蹴り上げるように後方や左右へ投げる「ともえ投げ」。一般的に奇襲とされるが、角田の場合は勝負を決める定番の手札だ。返し技を食らいにくく「こんなにリスクの低い技はない。なぜもっとみんなやらないのか」と語る。

世界選手権はこの必殺技を軸に３大会連続でオール一本勝ち。昨年の決勝はかがんでこらえる相手を引き抜くように持ち上げ、鮮やかに仕留めた一撃が圧巻だった。19年まで闘った52キロ級時代には、東京五輪覇者の阿部詩（パーク24）をも倒したことがある。日本女子の増地克之監督は「分かっていてもかかってしまう」と舌を巻く。

千葉・八千代高、東京学芸大の頃まで、立ち技は内股や担ぎ技が主体。実業団入りした直後の右膝手術が転機だった。約１年後に復帰しても「軸足が踏ん張れず、かけられる技がない」と危機感が募り、「これくらいしかない」と取り組んだのがともえ投げだった。

活路を求めた捨て身技に、最軽量級では長身の１６１㌢と長い手足がマッチした。イメージは子どもをあやす「高い高い」。「足の裏で体重を感じ取りながら、手で支えるように持ち上げて落とす」と解説する。そこには一流ならではの工夫が詰まっている。

ともえ投げの使い手だった12年ロンドン五輪男子73キロ級銀メダルの中矢力さんによると「相手の両手を畳につかせないこと」が秘訣（ひけつ）。角田はこのこつを実践している。敵の両手首や肘をがっちりつかんで抵抗を防ぐ「手さばき」が秀逸。両足を駆使して胴体をコントロールするという珍しい動きに加え、足の５本指を手のようにして使い、自在に相手の道着を握れる能力は驚異的だ。滞空時間が長く、両足をも宙に浮かせてしまう。

警戒して踏ん張られると、前に出て小外刈りなどの鋭い足技を見せつつ前方に引き込む。「相手の受け方が１００通りあれば、１００通りの投げ方を考える」との探究心も強み。繊細な感覚を求めるあまり、好不調の波に悩む時期があるからこそ「好きな人」を追い続けるのだという。

パリ五輪では「お家芸」の先陣を切り、日本選手団金メダル第１号の期待が懸かる。「自分らしく、柔道を楽しんでしっかり勝つ」。強豪校とは無縁の歩みで、独創的な発想により育まれた才能が30代にして満開の時を迎えようとしている。