五輪開幕を控えたブラジル・リオデジャネイロの治安悪化が止まらない。景気低迷の影響で強盗や窃盗の発生件数が増えており、五輪関係者の被害も頻発。「街に慣れていない外国人観戦客は狙われやすい」(地元住民)とされる。当局は会場周辺を中心に8万5000人を動員して治安維持に当たるが、焼け石に水だ。

 横を通り過ぎた上半身裸の若い男が突然振り返り、歩いていた日本人夫婦の体を無言のまま触り始めた。7月12日午後8時前、高級ホテルが多い海岸沿いのイパネマ地区。夫婦は後ろから来た別の男との間に挟まれ、かばんのほか腹に隠していた財布も奪われた。恐怖に耐えた後、警察に駆け込んだ。

 取られたスマートフォンの衛星利用測位システム(GPS)機能は男らがファベーラと呼ばれるスラム街にいることを示していた。「取り返して」。夫婦の懇願に警官らは困惑顔だ。リオに約千カ所あるファベーラの大半に警察の権限は及ばず、突入すれば銃撃戦になる。「スマホや現金程度の被害では踏み込まない」(警察関係者)のがブラジルの常識だ。

 リオ市の昨年1年間の10万人当たりの犯罪発生件数は、殺人が日本の25倍、強盗は660倍。治安当局によると、今年前半に起きた殺人事件は前年同期比で約17%、路上強盗は約34%増加した。

 7月27日には中国選手団スタッフらがセーリング会場近くのグロリア地区で襲われ、現金など4万レアル(約126万円)相当を奪われた。当局は五輪メイン会場がある西部バーラ地区に治安部隊を重点配備するが中心部では各国報道陣の被害も多く、撃たれたり刺されたりして市民が死亡する事件も多発している。

 在リオデジャネイロ日本総領事館によると、2014年のサッカーW杯では日本人被害者の3分の1が報道陣。担当領事は「高額で取引されるカメラやスマホが狙われた」と指摘、訪問客に対し「抵抗しなければけがはしない。携帯電話は目立たないよう屋内で使ってほしい」と呼び掛けた。