ボートレース浜名湖では、ボートファンに向けて、ペアボート試乗会を開催している。これはボートレース選手会が行う事業の1つに「海事思想の普及宣伝」という項目があり、「ペアボートの体験試乗」を通して、マリンスポーツなどに親しんでもらおうという目的もある。参加者は、ボートレーサー操縦の2人乗りボートに、浜名湖の競走水面を実際に滑走する。レースさながらのスリルとスピード感で、参加者は「水上の格闘技」を体感できる。しかし、実際はどんなものなのか? 記者が実際に試乗会に参加してきた。

 参加者はピット入口に集合、職員から注意事項の説明が行われる。ピット内では整備中のボートに触れないこと、携帯電話の電源を切ることなどを確認して、いよいよ「聖域」へ足を踏み入れる。高鳴る胸の鼓動を抑えながら、整備中の競走艇がずらりと並ぶ脇を歩く。

 ピットで用意されたヘルメット、ライフジャケット、勝負服を装着する。ヘルメットはM、L、LLと準備されているので頭の大きな自分も安心だ。勝負服のチャックを上げると、気持ちは既にトップレーサーだ。

 同乗の選手に誘われて、木製ボートに乗り込む。偶然この日は人気女子レーサー長島万記選手がアテンドしてくれた。ヘルメット越しに「初めてですか?」と選手に聞かれると、「はい。お願いします」と付き従うしかない。彼女に命を委ねた気持ちだ。選手はボートの後方席、体験者は前方席に正座して両手でフックを強く握る。

 選手がエンジンをかけて、いよいよピット離れだ。木製ボートは向かい風の中、スピードを上げる。バリバリと音を立てながら、まるでコンクリートのような水面の上を滑り出す。振り落とされないように両手に力を込める。これで時速60キロ程度だそうだが、本番レースでは80キロ以上出るとのこと。体を上下に振られながら、脇筋が痛む。何より1マークのターンは予想以上のGが掛かり、正座した足がこむら返りを起こしそうだ。そのまま2周目に突入。「もう許して下さい」と心の中で叫ぶ。それでも見開き瞳に映った風景は、浜名湖の美しい水面。それは岸辺から見ることの出来ない水面目線の「奇跡の光景」だ! 体が慣れて感動を覚えた頃、ようやく減速して、ボートはピットへ帰る。

 今まで数え切れないボートレースを観戦した。しかし実際に乗ってみると、いかに選手が過酷なレースを行っているか体で分かる。下船後も足が震えた。ジェットコースターに初めて乗ったときのようだ。そして何とも言えない達成感が心を満たした。これが「水上の格闘技」と呼ばれる由縁だろう。

 この非日常を体感できる「ペアボート試乗会」は入場先着順で決まることもあるが、ボートレース浜名湖のフェイスブックなどSNSで参加者募集情報を配信中だ。ぜひチェックして、多くのファンにチャレンジしていただきたい。

 なお、実際のレースに準じた水面管理、救助艇の配備など万全を期し、各部門のプロが受け持っているので安心して参加できる。