エンブレムにキスして、両手でかみしめるようにガッツポーズした。10月29日のG大阪-新潟(吹田S)。G大阪FW呉屋大翔(ごや・ひろと、22)が、J1初ゴールを挙げた。後半53分。DF藤春の左クロスにMF井手口が詰め、相手DFのこぼれ球を泥臭く押し込んだ。

 関学大卒の1年目。大学時代は関西学生リーグ得点王を3年連続で奪ったFWが、ようやく最初の扉を開いた。J1リーグ13試合目での初ゴールは、呉屋いわく「ちょっと遅かった」。それでも、今季ホーム最終戦のラストプレー。滑り込みギリギリでも、キレイなシュートでなくてもゴールに向かい続けて決めきる男が「呉屋大翔」だ。

 どうしても、あのシーンを思い出してしまう。記憶に新しいルヴァン杯決勝(同15日、埼玉)。途中出場した呉屋は1-1の延長後半で決定機でのシュートがポストに直撃。さらにPK戦では4人目のキッカーを務めるも両軍で唯一の失敗を喫した。一気に全国区となった呉屋の名前。その時のニュースは「もう全部、自分の記事は全部チェックした」という。

 準優勝に終わっても誰も22歳を責めはしなかった。なぜなら、決勝の舞台に立てたのは呉屋の活躍があったからだ。ルヴァン杯準々決勝第1戦のアウェー広島戦(8月31日)。0-1から呉屋が貴重なアウェーゴールを放ち、同点とした。ホームの第2戦に臨むためにも大きな1点。そして、これが新人FWにとって公式戦初ゴールでもあった。

 9月上旬。オフ前日に呉屋が言った。「明日は実家に帰ります。ばあちゃんが『初めてゴールしたんやから帰って来てほしい』って言ってるので」。祖母に会いに行くのには理由があった。ある「ご褒美」をもらうため。祖母がゴールを祝福して用意してくれる和菓子を食べるためだった。「おだんご、おまんじゅう。いつも決めると準備してくれるんです」。ゴールをして、祖母の愛情たっぷり和菓子を満面の笑みでほおばる。それが、恒例の「ばあちゃん孝行」なのだ。

 話を戻して、10月29日の新潟戦。スタンドには祖母の姿があった。いつも背中を押してくれる祖母の目の前でJ1初ゴールをささげた。試合後すぐさま連絡があったという。「ばあちゃんからLINEが来ました。『おめでとう』って。喜んでもらえて良かった」。でも、呉屋はまだまだ満足していない。11月1日は祖母の誕生日。「何かプレゼントあげないとな」。最終節川崎F戦でのゴール。結果を残して「ご褒美」をおいしそうに食べることが、何よりのプレゼントになることだろう。【小杉舞】


 ◆小杉舞(こすぎ・まい)1990年(平2)6月21日、奈良市生まれ。大阪教育大を卒業し、14年に大阪本社に入社。1年目の同年11月から西日本サッカー担当。今季の担当はG大阪など関西圏クラブ。甲子園球場での売り子時代に培った体力は自信あり。和菓子は好きだが、チョコレートは食わず嫌い。