<W杯アジア3次予選:日本3-0タイ>◇14日◇2組◇バンコク、ラジャマンガラ・スタジアム

 【バンコク=14日】DF田中マルクス闘莉王(27=浦和)が自身W杯予選初ゴールを決めて、愛する日本を勝利に導いた。最終予選進出のかかるW杯アジア3次予選タイ戦。前半23分にMF遠藤の左クロスにファーサイドで反応し、先制ヘッド弾をたたき込んだ。国籍取得選手としては97年W杯予選のFW呂比須以来のゴールで勢いに乗り3-0と圧勝。岡田ジャパンはアウェー初勝利を挙げた。22日のバーレーン戦で2組首位突破をかける。

 闘莉王が日本の道を切り開いた。前半23分。MF遠藤の左CKをMF中村俊がショートコーナーで遠藤に戻して、タイ守備陣を揺さぶる。そして遠藤からの左クロスがファーサイドのスペースへ。DFの背後に待ち構えていた闘莉王が跳び上がった。頭が余裕で抜きんでた。そして躍動感あふれる体勢からヘッドをゴール右隅にたたきつけた。

 集中力の切れやすいタイから戦意を奪うためにも、絶対に欲しかった先制点。そして味方と激しく抱き合った。「今回は合宿も長くて、ヤット(遠藤)とシュン(中村俊)ともよく話し合えた。長くやってきたことの強みが出た」。1日1日の積み重ねが結実したW杯予選初ゴールに「(W杯予選という)舞台に立たせてもらっているだけでもありがたいと思っている」と酔いしれた。

 日の丸を背負うということの重みは、誰よりも感じている。同じようにブラジル人から日本国籍を取得したFW呂比須が97年W杯予選でゴールを挙げてから1年後、来日した。当初は言葉も通じず、食事も口に合わず「地獄に近かった」と振り返るほどだった。だが、渋谷幕張高での3年間に周囲の支えを受けることで、日本のことを愛するようになった。

 卒業時に「日本に来て良かった」という題名の卒業文集をつづった。今のように流ちょうな日本語ではない。今は簡単に書ける漢字も平仮名でしか、書けなかった。だがクラスメートに助けられたことなど感謝の思いを素直に書いた。文集の最後を締めくくったのは「この3年間は絶対に忘れられないし、どう考えてもこの学校へ来て良かったと思います」。それは後に「日本人闘莉王」になることを決心する、心の土台となったことの証しだった。

 日本を愛しているから、代表選手であることの誇りを感じている。プライドがあるからこそ、仲間のことを助けたいと思う。7日のオマーン戦でラフプレーで退場したFW大久保がバッシングにさらされると「あいつは悪くない。自分のためにではなくチームのために戦っている男だから」とかばった。試合前には「お前のためにゴールを決めてやる」と約束した。男の言葉に二言はなかった。

 最後まで全身全霊を尽くした。3-0で迎えた後半終盤も右サイドを駆け上がり、鋭いステップから好クロスを上げた。ブロックされるやいなや、自陣に全力で戻った。日本のために最後まで走り続けた。「修正すべき点もあるだろうし、強くなるためもう1歩勉強してやっていきたい」。闘莉王は代表とともに歩んでいく。【広重竜太郎】