J2熊本FW巻誠一郎(35)が、全国の支援者と被災地熊本をつなぐ「ホットライン」づくりに着手した。18日に福岡県内の協力者のもとに赴き、打ち合わせ。SNSなどで支援を申し出る全国の支援者からの物資送り先として、この福岡県内の場所を紹介することを決めた。

 支援を希望するが、どうやって現地に物資を送ってよいのか分からない、という声も多い。しかも熊本県内の物流ルートは、ずたずたに引き裂かれている。いったん県外に集約し、まとめて搬送した方が効果的だと、巻は友人との話し合いの中で結論づけた。

 物資による支援で大事なのは、どこで何が不足しているのかを把握し、必要なものを必要な分だけ配布することだ。巻は被災直後から、地元のネットワークとSNSを駆使し、どこで誰が何を求めているのかを調査してきた。

 「ある避難所では、90歳のおばあちゃんがバスタオルの上で寝ている、という話もありました。またある避難所では、みなさんが被災後一度も歯を磨けていないということでした。そこには何よりも先に、毛布や歯ブラシを持って行ってあげたい。地元の人しか分からない山道しか通じていない被災地も多くて、実情が伝わっていないというのは感じます。そこは僕のような地元の人間が、何かできる余地があるところかなと」。

 自らにもアレルギー反応を気にする必要がある子どもがいる。だから食料を受け取っても、簡単には子どもに食べさせられないという被災者の苦悩はよく分かった。被災地に生まれ、被災地に育ち、今も被災者とともに暮らす巻だからこそ分かることは多い。ホットライン構築を決断した理由の1つだ。

 熊本の選手同士のグループラインも、行うべき被災者支援の話や、必要な物資の話で埋まっている。一方、誰もサッカーの話は切り出さないという。「今はみんな、熊本のために何ができるかということばかり。そりゃ、サッカー選手ですから、サッカーをしたいのは当たり前です。でも今は、自分たちが試合をするというイメージは、正直まったく浮かんできません」と吐露する。

 一方で「サッカー選手の力」というのも実感している。巻は18日午前に、福岡県内の協力者のもとを、支援物資の中継地点とするとSNSで告知した。これを全国のファンが次々とシェア。半日でフェイスブックだけでも約1000件もシェアされた。この発信力は、日本代表としてW杯にも出場した人気アスリートの巻ならではのものだ。

 「今回のことがあって、自分ひとりでできることには限りがあると、あらためて痛感しました。でも僕には、サッカーのおかげで広がった人脈もあれば、応援してくださるファンのみなさんもいる。その間をつないでいけば、大きな力が生まれるんじゃないかと思うんです」。

 明日も巻は被災地を駆け回る。避難所の声を拾う。人と人とをつなぐ。「僕には派手なことはできない。走り回ることだけです」。オシム監督時代の千葉で。日本代表で。そして今はJ2熊本で。チームの勝利のために、ピッチを走り回る姿が重なる。

 「次は福岡の中継地点から被災地に、物資をいかに効果的に運ぶかが問題になります。これには人手が必要です。協力していただける方がいると、本当にありがたいです」。ホットラインを経由した全国からの「パス」を、被災地という「ゴール」に確実に決めなければ-。ストライカーの決意は固く、強い。