<J2:札幌1-0草津>◇第10節◇4日◇札幌ドーム

 札幌にようやく春が来た!

 J2札幌が草津を下し、今季4試合目にして初勝利を挙げた。後半ロスタイムにMF宮沢裕樹(21)がCKからのこぼれた球を押し込み、今季チーム初得点を奪った。後半ロスタイムでの決勝弾は、石崎監督1勝目となった09年3月15日の鳥栖戦以来。チーム全員の執念でつかんだ待望の今季1勝を、浮上への起爆剤にする。

 劇的でぐちゃぐちゃで泥臭~い今季1号だった。開幕から4戦目。“362分”にして、札幌に待望のゴールが生まれた。後半ロスタイム2分、MF砂川の右CKをDF山下がヘディングシュート。ゴール前の混戦から、宮沢がこぼれ球に右足を伸ばし、ゴールへと流し込んだ。忘れていた喜びの瞬間だ。あまりのうれしさに、ヒーローが立ち上がったときには既に山下、河合、岡本が先に抱き合っていた。オレも入れてくれ。ちょっぴりはにかみながら背番号10番が歓喜の輪にジャンプして飛びついた。

 「ゴールのことよりチームが勝てたことがうれしい。混戦でよく見えなかったけど、しっかり詰める意識が得点につながった」。前節まで開幕から無得点は、J1、J2合わせ、札幌だけだった。後半42分にはDFチアゴのヘディングシュートがゴールネットを揺らすもファウルを取られノーゴール。またか、と誰もがあきらめた土壇場に、道産子MFがドラマチックに試合を決めた。石崎監督も貴重な決勝弾に「芳賀と宮沢はうちの心臓部。攻守によくやってくれていた」とたたえた。

 待望の“1人暮らし1号”だ。プロ4年目の今季から寮を出た。部屋も広くなり掃除など家のことをやるうちに、寮生活でほぼ毎日取っていた昼寝をしなくなった。おかげで「夜にしっかり睡眠を取れるようになった」と言う。わずかな変化だが昼寝封印で、練習に臨むコンディションは格段に上がった。

 生活も“独り立ち”して、精神面も一回り大人になった。室蘭大谷高3年時、恩師の加藤栄治前監督(53)に相談もせず、一般企業に就職しようと願書を準備して、こっぴどくしかられた。それから4年。高校卒業後は地元の社会人リーグで「楽しんでサッカーをしたい」と話していた青年は今、FW、MF、DFから家事までこなす“万能”プロ選手に成長した。

 世代別代表からは09年以来2シーズン呼ばれていない。ロンドン五輪の夢が遠のきかけているが「今はチームで結果を残すことに集中している。気にならなくなった」と前を見据えた。まだ16位と昇格ラインはほど遠いが、確実に大きな1歩を踏み出した。格好悪いゴールでも1点は1点。道産子10番の劇弾が、巻き返しの合図となる。【永野高輔】