<中村俊輔独占インタビュー(上):欧州CL編>

 セルティックMF中村俊輔(30)にとって、3度目の欧州チャンピオンズリーグ(CL)がいよいよ始まる。17日(日本時間18日)にホームでオールボー(デンマーク)と対戦。セルティックとの契約が、今季いっぱいで切れるため、今回が最後の欧州CLとなることが濃厚だ。欧州でプレーした7シーズンの集大成ともいえる大会を前に、中村が現在の心境、欧州CLへの思い、日本代表についてなどを熱く語った。中村のインタビューを17日と18日の2回に分けて掲載します。(聞き手・塩畑大輔、アンソニー・マッカスカー)

 中村のセルティックは、一昨季、昨季と2季続けて欧州CL16強に進出した。ACミランやバルセロナ、マンチェスターUというビッグクラブ、数々のスーパースターと対戦した。06年のマンUとの対戦では、2回FKゴールも決めた。3度目の開幕を前に、中村はそこで戦う喜びにあふれていた。

 中村「2年連続16強?

 あー、すごかったんだね(笑い)

 でも今回も面白くなると思うよ。去年くらいから、サッカー観が変わった。自分や味方のプレーだけでなく、いろんなことが見えるようになってきた。そりゃ若いころよりは体力的には落ちてきたし、疲労回復も多少は遅くなった。毎日風呂入って、マッサージを自分でして、ストレッチしてって繰り返さないときつい。でもそれ以上に、いろんな能力がまたバーッと広がって、それが今は面白いと感じている」。

 欧州で磨かれた感覚。何も指示がなくても、先を読んで、自分のするべきことを自然に実戦する能力だ。13日のリーグ戦マザーウェル戦でも、その感覚の一端を見せた。調整のため先発を外れ、4-0から4-2に差を詰められた状況下、後半35分からピッチに入った。攻撃を封印して試合を締めくくった。

 中村「ストラカン監督に呼ばれる前から、オレのことを使いたがってるな、というのも分かっていた。後半35分に入ったけど、20分早く入っていたら、また状況は違ったからね。落ち着かせるというより、流れをこっちに持ってこようというプレーをしたと思う。35分だったから、もう1点取るよりも、野球のクローザーのように、そのまま試合を終わらせることが大事だった。自分のプレーをして、1点取ってお客さんを沸かせるより、安全第一のプレーをし、相手の攻撃陣の出方を見てプレーする。それはサッカーを知っているからできた。そういう感性は、選手としてのプラスアルファだと思っている」。

 自分の変化を楽しんでいるようにも映る。欧州の強豪でチームのかじ取りをするまでに成長し、30歳になっても、自分に変化を求める姿勢の原点は、幼少時の挫折にあった。

 中村「自分に足りない何かを、アンテナを張り巡らせて探す作業は、中学3年当時からずっと続いている。当時はスルーパス出したり、きれいなプレーをしようとしか思わなかった。そうしたら体が小さいこともあって、ベンチにも入れなくなった。ユースに上がれず、桐光学園高でも、最初は水くみとかメガホン使っての応援が仕事。そういうのが怖いから、アンテナを広げて、自分に何が足りないか探す癖がついた。みんなに置いていかれるのが怖くて、立ち止まれないんだよね」。

 川崎市選抜に始まり、高校選抜、U-18日本代表。その中に入るたび、周囲のレベルの高さに危機感を覚え、必死に追いつくことの繰り返しだった。

 中村「特に19歳の時に岡田監督が、代表合宿に呼んでくれたのが大きかった。(磐田MF)名波さんのボールキープの仕方とか、(C大阪MF)森島さんの動き方とか、そういうのを全部サッカーノートにつけた。そうやって日本である程度吸収させてもらったから、今度は世界にアンテナを向けたい気持ちが芽生えた。厳しい環境に身を置いて、危機感が生まれる。そうやって伸びてきたから、早く世界に出ないといけないと思った。

 レジーナがどこにあるかも分からなかったけど、一番交渉が早くまとまりそうだったから決めた。サッカーしかないと思ったから、何でも耐えられた。塩水しか出ないシャワーで、髪はバリバリになった。合宿の時は朝飯がバナナだけだった。代表との掛け持ちも大変だったし、そんな中でも時差ぼけとかでパフォーマンスが落ちれば、すぐ出られなくなった。攻撃の組み立てに専念する司令塔は、イタリアでは必要とされなかった。だからDFラインの裏に自分で抜けようとしたり、こぼれ球拾ったり、プレースタイルも変えた。そういうのを経験したから、スコットランドリーグにも対応できたと思う」。

 セリエAの次は、欧州CLを目指した。自分が足りない何かを探すアンテナが導くまま、中村はセルティックに移籍した。欧州CLで多くのトップクラブと戦う中で、大人のプレーヤーに成長した。

 中村「セリエAの時なんかは、試合直前は自分のプレーDVDを目に焼き付けて、好きな音楽を何度も聞き込んだ。極限まで気持ちを高めることで、ようやくいいプレーができた。でも今は、そういうことをしなくても、スッと試合に入れる。こういうプレーをしたら相手が嫌がるとか、ここに飛び出したらいいとか、そういう感性が身に付いた。サッカーがよく分かってくれば、自分のレベルも上がるんじゃないかなとも考えている。1つのプレーの善しあしも大事だけど、サッカー全体を見渡す必要もある。30歳になって、そのことを強く感じている」。

 セルティックとの契約は今季限り。欧州CL出場も今回が最後の可能性が高い。欧州生活の集大成として、アンテナの感度を最大に上げ、世界最高峰の舞台を味わいつくす。

 中村「30歳を超えて衰えてくる部分もあるけど、選手としてのレベルは確実に上がっていると思う。欧州CLを戦っていて、すごく面白いと感じるから、今回はいけるところまで行きたい。だいたいCLには、いろいろすごい選手が出てくるからね。たとえば去年対戦したシャフタール・ドネツク(ウクライナ)のブラジル人(MFフェルナンジーニョ)とか。世界的に無名だけど、めちゃめちゃうまかった。いかにも世界のサッカーというか、Jリーグじゃ体験できないもの。セリエAでも感じることができなかった。だから今回もできるだけ、レベルの高いところとやりたい」。(18日は「日本代表編」)