【ブライトン(英国)21日=岡崎悠利】ラグビーW杯初戦で優勝候補の南アフリカに勝った日本代表は、次戦スコットランドのメンバー23人を発表した。また現地時間の21日正午に更新された世界ランキングで13位から11位に上がり、同12位のスコットランドを上回った。大番狂わせの余韻が残る20日(日本時間21日未明)の練習後、フッカー木津武士(27=神戸製鋼)が、大逆転へのポイントになったフランカーのリーチ・マイケル主将(26=東芝)との戦術的なやりとりを明かした。
木津はまだその場にいるような表情で、歴史的金星への分岐点を生々しく振り返った。
29-32の後半40分過ぎ、相手ゴール前。反則を獲得し、日本にはキック、スクラム、ラインアウトの選択肢があった。キックで同点か、負け覚悟で攻めるか。リーチは割れるような歓声の中で木津に聞いた。
「スクラム、いける?」
フッカー木津が答える。
「いける。いけるよ」
相手はシンビン(一時退場)で1人少ない。これはスクラムでは大きなアドバンテージだった。そして、何よりもグラウンドにいた全員の「気持ち」を、木津は伝えた。
「キックで同点で終わったら、日本ラグビーの歴史は変わらへん。勝つか負けるかやろ」
心は決まった。木津は「自信を持って全員でスクラムを選択した」と、逆転への流れが決した瞬間をストレートに表現した。
エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC=55)はスタンドから無線で言っていた。「ショット(キック)だ」。同時に、右手3本の指を立てて指示した。同点で勝ち点2。これだけ大善戦したなら、1つでも多くの勝ち点を持って帰ろう。それが指揮官の選択だった。ただ、選手は違った。ラインアウトか、スクラム。逆転勝利しか見えていなかった。リーチ主将がスクラムを選択すると、ジョーンズHCはこわばった表情のまま見守った。
南ア戦での日本代表は、ラインアウトからのモールも絶好調だった。前半にはトライを奪い、このスクラムの直前にも相手ゴールまで押し込んでいた。だが、この場面で選択しなかった場面を、スローワーの木津はこう言った。
「めちゃくちゃ緊張しましたよ。これでまっすぐいかんと反則なんてとられたら、日本に帰られへんと思っていました。だからリーチに『スクラム !スクラムいこ!』と言いました」
周囲を笑わせたが、極限の緊張状態にあった。
南アに勝ったが、体は想像以上のダメージを受けている。木津は「最後の10分しか出ていないのにだいぶ体にきている。回復させる方に集中した方がいい」。
試合翌日は気温約15度の中、ホテル近くの海でリフレッシュし、午後から軽く体を動かした。「これでスコットランドに負けたら、ファンをがっかりさせてしまう」と木津。ここまできたら決勝トーナメントに行かないといけない。チームにはそんな雰囲気が漂っている。