【リオデジャネイロ(ブラジル)26日=三須一紀】「五輪は外国人へ向けての化粧だ」。リオデジャネイロの山肌に無数に形成されたファベーラ(貧民街)の住民らが、五輪開幕まで100日の節目を前に語った。下院で大統領の弾劾決議が可決されるほど政治不安にあるブラジル国内だが、ファベーラの住民は五輪直前の社会を冷静に見極めていた。

 サンバのリズムに数百人が集まった。月曜日の旧市街(セントロ)。奥まった路地の脇にはビールなどを売る露店がずらり。音楽を奏でるバンドを囲み、ファベーラへと続く坂道には、ずらりとサンバを楽しむ若者が張り付いていた。

 観光ビーチのコパカバーナからは車で20分ほどの場所。坂道の上は、リオデジャネイロで最も古いとされる「プロビデンシア」と呼ばれるファベーラだ。そこの住民、タレス・ウェイデルさん(24)は威勢良くビールを売っていたが、「五輪100日前」の質問を聞くと表情が一変した。

 「五輪は外国人向けの化粧だ。ブラジル人のための五輪になっていない。チケットなんて買えるはずもない」。昨年に船会社の仕事を解雇され、今は自転車を改造したリヤカーでビールや水を売って生計を立てている。月収は良いときで約6万円。日本とさほど変わらない物価のリオでは、苦しい収入だ。

 「化粧にお金をかけるより、ファベーラの子どもにも平等に教育を受けさせるようにしてほしい」と嘆く。それでも下院で弾劾決議が可決したルセフ大統領については「やめさせるのには反対だ」と話す。汚職疑惑が騒がれるブラジルの政界について「みんな同じだが(左派寄りの)ルセフが辞めたら、後の大統領は我々のような貧乏人を即、切り捨てる。金持ちだけの社会になる」と警戒。「ルセフが良いんじゃない。しょうがないからルセフなんだ」と複雑な胸中を吐露した。

 新聞配達で妻と16歳の娘、9歳の息子を養うエンヒケ・シウバさんは「娘が行きたいと話す歌の専門学校すら行かせられない。金持ちと貧乏人の格差が広がっている」と話す。彼らは決してわがままを言っているわけではない。「貧しい環境といっても我々はファベーラに住み続ける。ただ子どもの教育だけでも、政府にはしっかりしてほしい。このままでは五輪は我々に借金というレガシーを残すだけだ」。サンバの丘に、怒りと嘆きが響いた五輪100日前だった。

 ◆ファベーラ ブラジルの都市部で、市街地や富裕層の住む平地に接した山の斜面などに形成された貧民街。1888年の奴隷制廃止後、大農場などから職を求めて都市部に移った低所得労働者らが家を持てず、多くの場合、不法占拠のような形で形成した。斜面に沿って、家の上に家を重ねながら、山肌を覆うように広がっている。水はタンクに入れて持って登ったり、湧き水も利用される。下水は水路に流す。電気はふもとの電線からの盗電で、迷路のような細い路地には無数の電線が伸びている。