ただ楢崎らしい戦い方でもあった。準決勝は上位6人中3番手で決勝進出。「ここで登らないとって時に僕は強いんです」と、予選で予言していた通りに、決勝では勝負強さを発揮した。第1課題は、残り5秒からゴールのホールドに飛び付く驚異的な跳躍で「奇跡的」と表現する劇的な完登。昨年の世界選手権では準決勝を6位通過し、決勝の最初の課題を1人だけ一撃して流れをつかんで優勝。この日も逆境に強い楢崎らしい決勝の入り方だったが、それでも勝負は厳しかった。

 これでW杯では3大会連続で2位となった。総合2連覇を目指すランキング(世界選手権などの成績も加味)では1位と、世界トップの力は維持している。「アレクセイ(ルブツォフ)が2度優勝している。さらに頑張ろうと思った」。楢崎の目に浮かんでいた涙は乾いた。すでに闘志が湧き始めている。【井上真】

 ◆楢崎智亜(ならさき・ともあ)1996年(平8)6月22日生まれ、栃木県出身。兄の影響で小学5年からクライミングを始める。同時期にやっていた器械体操が、クライミングの能力に好影響を与え、実力を伸ばした。宇都宮北高卒業後、プロ転向。16年のボルダリング中国・重慶大会でW杯初優勝。昨年は年間総合優勝を果たし、世界選手権優勝と合わせて2冠。170センチ。

 ◆ボルダリングの順位決定方法 複数の課題を登り切った(完登)本数を競う。完登数が同じ場合は完登に要したトライ(T)数が少ない者が上位。並んだ場合はコース途中の事前に定められたホールド(突起物)を保持して得られたボーナス(B)の数、さらにボーナスを獲得するために要したトライ数で順位を決める。例えば、楢崎の決勝の記録「3T9 4B10」は9トライで3完登、10トライで4ボーナス獲得を意味する。