北京五輪日本代表が着る予定の新作水着が発表されたその日に、異例の改良希望が出た。日本水連と契約するアシックスが3日、都内で最新の競泳用水着を発表。3年を要して開発されたものだが、記録ラッシュとなった3月の欧州選手権視察で、レベルの向上に驚いた上野広治競泳委員長は「世界一の水着を作ってほしい」と、さらなる完成度を求めた。五輪代表選考会の日本選手権(15~20日、東京辰巳国際水泳場)後は、選手とともに水着の強化にも目を光らせていく。

 欧州勢のレベルアップを目の当たりにして、上野委員長から思わず本音が漏れた。「日本は車とかも、つくるのがうまいんだから、日本選手権後の110日間で、もう1度完成度を上げてくれないかな。世界一速い水着を作ってほしい」。この日、アシックスが五輪に向けた最新水着を発表したことは知っていた。水着開発に要する労力も熟知している。それでも、6つの世界新を目撃した直後だけに、現場トップは改良を希望せずにはいられなかった。

 2日の英国選手権男子50メートル背泳ぎで、タンコックが世界新を樹立した。世界新は、今年に入ってすでに18個目。うちスピード社の最新水着を着た選手が、タンコックを含め17を占めている。だが日本代表選手は、日本水連と契約するアシックス、ミズノ、デサントの3社の製品しか着ることができない。それだけに、水着は3社の企業努力に期待するしかない。

 五輪に向けた最新水着はすでに、デサントが1月に発表。この日のアシックスに続き、9日にはミズノが発表する。各社とも技術力を結集。アシックスは水の抵抗の軽減と推進力増大を狙い、体の中心部だけベルト状に企業秘密の新素材を採用。骨盤を直線状態に保つ構造にした。開発には3年を要したという。実は2月の短水路日本選手権で、この水着を着た中村礼子と中西悠子が短水路世界新を記録。会見に同席した中村は「無駄のない泳ぎができた。目指すところは金メダル」と言い切った。スピード社製にも劣らないことを強調した。

 上野委員長は「五輪では合わせて20個ぐらいの世界新と五輪新が出るのでは。日本選手権では、代表全員が日本新を出すぐらいでないと」と期待する。現場、メーカーが一体となってメダル量産に挑む。【高田文太】