<ホッケー:ロンドン五輪世界最終予選・日本3-2中国>◇10日目◇4日◇男子1次リーグ◇岐阜県グリーンスタジアム

 「さむらいジャパン」が44年ぶりの五輪に王手!

 世界ランク15位の日本男子は同17位中国との「日中サバイバル戦」を制し、6日の決勝進出を決めた。引き分け以上で1次リーグ突破の日本は1点を追う後半22分、DF長沢克好(26=名古屋フラーテル)がペナルティーコーナー(PC)を決めて同点。終了間際にはFW坪内一浩(30=名古屋フラーテル)が突き放し、南アフリカとの決戦へ駒を進めた。今日5日に決勝を戦う日本女子とのアベック王手。68年メキシコ五輪以来遠ざかる五輪の舞台へ、あと1勝だ。

 精根尽き果てての「王手」だった。日本が中国との激闘をものにして、五輪切符獲得決戦へ駒を進めた。残り13分からの同点、そして逆転劇。最後尾のDF粥川は両足をつりながら走り抜き、猛攻をしのいだ。44年ぶりの夢舞台へあと1勝。「中国がすごくいいファイティングスピリットだった。ネバーギブアップだけでした」。歓喜の万歳に包まれながら、いつもは冷静なMF川上主将も興奮を抑えきれなかった。

 耐えた。勝たなければ五輪への道が断たれる中国は、体を張って攻めてきた。前半10分にPCから先制されると、1-1の同30分には勝ち越しを許す。今大会初めて先行される展開。素早いプレスにパスもつながらなかった。「厳しい時に俺が決める、という顔で走ってきた。こっちが逆に励まされました」。嫌なムードを断ち切り、川上主将が感謝するのは自称「チャラ男」のDF長沢だった。

 後半22分、PCの同点機だった。それまで3度のPCを決められなかった長沢が、勝負師の顔でイレブンを鼓舞した。得意のドラッグシュートを右サイドに突き刺し、5試合連続、チーム最多の7点目。「日本の得点源」は右手のガッツポーズを力強く振り下ろし、言葉にならない声で絶叫した。最後はGKを引っ込めて「11人総攻撃」の中国に逆襲し、決着をつけた。

 「44年ぶり」以上の負の歴史がある。72年ミュンヘン大会。実は日本は4大会連続の五輪出場を決めている。ところが同年1月、まさかの連絡があった。「出場権を失った」。71年末が期限だった予備エントリーを、当時の日本体育協会と日本オリンピック委員会が忘れていた。冬季札幌五輪の準備で多忙だったとはいえ、「うっかり」じゃ済まされないミス。そこから40年以上も五輪が遠ざかるとは、思わなかっただろう。

 その時がきた。前髪を茶色に染める長沢に、必要以上の悲壮感はない。「最高の舞台ですよ。44年といっても…こんなチャラいヤツが出ていいのかな、と思うんですけどワクワクしますね」。1次リーグ負けなしで首位通過。最後は南アフリカとの決戦だ。「いろんな人の思いも背負って、諦めない戦いをしたい。歴史を変えるのは今しかない」と川上主将。世界に誇る「さむらい」が、44年間閉ざされた扉を開く。【近間康隆】

 ◆ホッケー男子のロンドン五輪

 出場は12カ国。既に開催国英国はじめ、各大陸王者や日本開催以外の最終予選の勝者であるドイツ、オランダ、ベルギー、スペイン、オーストラリア、ニュージーランド、アルゼンチン、パキスタン、インド、韓国が出場を決めている。日本の五輪出場は今回の世界最終予選優勝が条件。最終予選は6カ国総当たりで1次リーグ戦を行い、勝ち=3点、引き分け=1点、負け=0点の勝ち点制で、上位2カ国が決勝で代表権を争う。

 ◆ホッケー日本男子と五輪

 初出場の32年ロサンゼルス五輪で銀メダルを獲得。出場は3カ国で日本はインドに敗れたが米国に勝利し、1勝1敗で2位だった。連続して出た36年ベルリン五輪は7位。60年ローマ五輪からは3大会連続で出場した。68年メキシコ五輪は現女子代表の安田善治郎監督や、前女子代表監督の恩田昌史氏、元男子代表監督の長屋恭一氏らがメンバー。08年の北京五輪は今回と同じ岐阜で世界最終予選が行われ、日本は1次リーグを突破。だが決勝の相手が当時世界ランク1位で、のちに北京五輪でも優勝したドイツで、日本は0-4で敗れた。