<大相撲初場所>◇初日◇11日◇東京・両国国技館

 横綱朝青龍(28=高砂)が、気合で「鬼門」を突破した。3場所連続休場後の進退をかけた復帰場所初日。苦手とする小結稀勢の里(22)に土俵際まで追い込まれたが、素早い右の巻き替えから逆転し、もろ差しから一気に寄り切った。場所前から力の衰えが指摘され、休場を勧める声もあったが、土俵の上では持ち前の相撲勘と勝負強さを発揮。負ければ引退につながりかねない初日を切り抜けた。突き放されると体が浮くなど不安は残るが、だめ押しで稀勢の里を流血させ、報道陣にもすごんでみせるなど負けん気は健在だった。

 朝青龍の卓越した相撲センスは生きていた。稀勢の里の右からの突きに体が浮いた。相手の得意な左四つ右上手になった。その窮地を一瞬で逆転した。ひじを痛めている左腕で、171キロにすくい投げを仕掛け、相手の左わきがあいた瞬間に、素早く巻き替えて右を差した。かいなを返してもろ差しになると、一気に前に出て寄り切った。

 3場所連続休場後の初日で、相手は最近1年間で2勝2敗の難敵。がけっぷちの状況を、持ち前のセンスと勝負強さで踏ん張った。寄り切った後には、右、左とダメ押しを連発して稀勢の里の鼻から流血させた。その後も顔は紅潮し、細い目はつり上がったまま。荒っぽさと気の強さも、戻っていた。全盛期に負けると大喜びして座布団を投げていた観客から歓声と、拍手がわき起こった。初めて見る国技館の光景を見渡した朝青龍は「うれしいな~」とつぶやいていた。

 途中休場した昨年7月の名古屋場所から力の衰えを自覚し始めた。周囲に「1年後にいるか分からない」とこぼし、9月の秋場所中には師匠の高砂親方(元大関朝潮)に初めて「自分も引き際を考える時ですか」とたずねた。左ひじ痛も完治せず九州場所まで3場所連続休場。7日の横綱審議委員会けいこ総見でも6勝10敗。自分も周囲も「がけっぷち」を感じていた。

 しかし、覚悟を決めて今場所の出場を決意してから、勝ちたい、まだ引退したくないという思いが強くなった。人一倍強い負けん気がよみがえってきた。前日10日には後援者や知人に次々と電話をかけて「まだ、やめませんよ。大丈夫ですから」と伝えた。ある有力後援者には「優勝しますから」と宣言。心配していた元床山床寿の日向端隆寿氏には「(けいこ総見では)遅くまで飲んでいたし、負けることはありますよ。心配しないでください」と語気を強めたという。

 最近は笑顔で対応していた報道陣の前でも、全盛期のように厳しい表情に変わった。前日は「まあ、頑張ります」とコメントしたのみ。この日も国技館入りした際、殺気を漂わせて記者をにらみつけた。周囲に「ようやく昔みたいになってきたな」と言わしめた。

 場所前に高砂親方が「序盤(5日間)で1敗以内で乗り切らないと、厳しくなる」と現役続行の条件を口にする中、負ければ「引退王手」となる状況だった。大きな1勝だったが、この日の朝青龍は勝った後も気を引き締めていた。「まだ初日だし、何だかんだ言っても先は長いしな」。後は何を聞いても「うん」とうなずくだけ。支度部屋を出て地下駐車場に向かう通路では、追いすがる記者に「まだ初日だろ。何回言わせるんだ。おらっ」とすごんでみせた。

 難敵の稀勢の里を倒しての白星発進にも、土俵際に追い込まれた相撲内容には満足していられない。2日目は四つ相撲に強く、がぶり寄りを得意とする琴奨菊と対戦する。場所前、総見の状態を見て休場を強く勧めたNHK解説者の元横綱北の富士勝昭氏も「今の朝青龍に楽な相手はいない」と指摘する。最初の壁は突破した。だがいばらの道は、まだ続く。【柳田通斉】