<大相撲名古屋場所>◇3日目◇14日◇愛知県体育館

 横綱朝青龍(28=高砂)が「品格なき」白星を挙げた。立ち合い、痛めているはずの左ひじで西前頭筆頭豪栄道(23)へ強烈なエルボー。顔面にはヒットしたが、逆に上体が伸び、右まわしを引かれて苦戦した。何とかもろ差しで寄り切ったあとは、土俵を割った相手にダメ押し。初日から3連勝も、危機感いっぱいの取り口だった。綱とりの日馬富士(25)は小結琴奨菊(25)に完敗し、早くも横綱昇進に黄信号。横綱白鵬(24)は危なげなく無傷の3連勝とした。

 朝青龍が、練習を重ねたプロレス技を披露した。右手だけをつき、フライング気味に立つ。同時に、テーピングを重ねた左腕を思い切り後ろに引いた。痛めているはずの左ひじで見舞ったのは、相撲の「かち上げ」ではなく、まさしく「エルボー」だ。豪栄道の顔は大きく揺れた。「(豪栄道は)上体が低いからね。起こしてやろうというつもりでやった」。初日前日の11日、けいこ場ではサイドスープレックスやヘッドロックを見せた。本場所では、また違う技を見せつけた。

 相撲ではなかった。NHKでは解説者の北の富士勝昭さん(元横綱)が「あれは、かち上げじゃない」と切り捨てた。武蔵川理事長(元横綱三重ノ海)も「ああいうのは良くない。ひとつ間違えば、(相手の差し手が)スパッと入る」と苦言。事実、相手を起こすどころか自分の上体が伸びてしまい、豪栄道に右前まわしを引かれた。右四つがっぷりからの下手投げを食らい、右足は俵にかかった。何とかもろ差しで寄り切ると、豪栄道をたまり席まで吹っ飛ばす始末。「元気な相手なんでね」と言い訳した。

 豪栄道は「すべてを教えたくなる」と才能を認める相手だ。3日目からつまずくわけにはいかない。5月は左ひじと腰の治療でモンゴルに帰国し、名古屋入り後も2勤1休。体の張りを失った状態で、ホープに負ける可能性を感じ取ったのだろう。取組前には冷房の効いた支度部屋から最高気温34度の屋外に出て、たっぷり汗を流した。ガムシャラに勝とうとする姿は、危機感の現れだった。

 取組後は突然、報道陣に「反物欲しい人、手挙げて」と聞いた。青地に龍が舞う新作浴衣は自慢の一品。だが囲んでいた約20人は誰も手を挙げず、「人気あるんだぞ…」と寂しそうだった。日馬富士が敗れたことには「見てないんだよ。どんな感じだった?

 何もできなかったの?」。テレビをじっと眺めていたのに、なぜかウソをついた。弟分の黒星に気を使うなら、もう少し違うところに気を使うべきだ。【近間康隆】