日本相撲協会の武蔵川理事長(62=元横綱三重ノ海)が12日辞任し、放駒新理事長(62=元大関魁傑)の就任が決まった。

 主役なき交代劇だった。午後9時30分、この日2度目の理事会が終わった。会見で協会役員ら14人が並ぶ中央には、武蔵川理事長でなく11日まで夏巡業に同行していた放駒新理事長がいた。08年9月に武蔵川政権が誕生してから2年。2代続けての「辞任劇」に、バトンを受けた放駒新理事長も困惑していた。

 放駒新理事長

 大変な時期に理事長を拝命しまして、戸惑っております。大変な難局ですが、ここにおられる先生方の力も借りまして、相撲協会の道筋を付けていきたい。ご承知のとおり、たっくさんの問題を抱えておりますが、ご協力のほど、よろしくお願いいたします。

 一枚岩ではないドタバタ劇だった。午前11時からの理事会冒頭、武蔵川理事長が「体が持たない」と辞意をもらした。後任に放駒親方を指名。一方で、武蔵川理事長が欠席した午後7時30分からの理事会では、貴乃花親方(元横綱)が「経験を踏まえて」と北の湖親方(元横綱)を推薦した。これに陸奥親方(元大関霧島)と鏡山親方(元関脇多賀竜)も賛同したが、無記名選挙で8対4。それでも固辞する放駒親方を、村山外部理事が「何の不祥事の出ていない彼(放駒)にやってもらうのがベスト」と後押しし、第11代理事長は決まった。

 追い詰められた結果だった。胃がんを患うなど、体調不良の武蔵川理事長は4日に辞意を明かした。ところが翌5日、外部理事長に抵抗する親方衆が猛反発。「まわし組」の続投依頼に、武蔵川理事長は翻意した。しかし10日には、特別調査委員会委員などを務める望月弁護士への解任騒動が発生。「改革」へ逆行する動きにイメージは悪化した。早急にトップを代えることで、72年ぶりの外部理事長誕生を「阻止」した形だ。

 放駒新理事長は真摯(しんし)な土俵態度で人気を博し、関係者が「堅物過ぎるほどマジメ」と口をそろえる。夏巡業で連日、土俵上から謝罪していただけに「改革というより、今起こっていることを早く解決すること」と決意を述べた。定年も迫るため任期は残り1年半。13日には協会職員を集めて「所信表明」する。就任発表と同時に、新たな野球賭博関与者も発表された。火中のクリを拾わされた新トップには、難局が待ち受けている。