<大相撲夏場所>◇10日目◇15日◇東京・両国国技館

 横綱白鵬(27=宮城野)は大関鶴竜(26)を寄り切り、連敗を3で止めた。剥離骨折している左手人さし指で、左まわしをつかみ、一気に勝負を決めた。

 白鵬が意地で寄り切った。ここ2場所連続で本割では苦杯をなめている鶴竜を、あっさりと下した。「久しぶりにいい相撲を取った。自分の中ではいい相撲があったが、逆転されたりと空回りしていた」と安堵(あんど)の表情を見せた。剥離骨折している左人さし指は、中指と2本まとめてテーピングをする。左右の手で感覚が違わないようにと、痛みがない右の人さし指と中指も同様にテーピングをした。力強くつかんだ左上手を武器に、土俵際で逆転を狙う新大関にも動じなかった。

 剥離骨折は2日目取組前の、エックス線検査で判明していた。医師からは症状の説明を詳細に受けた。隠して出場した9日目までに4敗を喫し、天皇賜杯は限りなく遠のいた。連敗中は「正直、人の顔も見たくないという気持ちだった」と吐露した。それでも土俵に上がる理由がある。「15日間、毎日見に来られる人ばかりじゃない。その日しか見に来られない人もいる。そういう人のためにも、いい相撲を見せるのが横綱の使命」。負けられない地位にいながら、ふがいない相撲で3連敗を喫した。1人横綱としての信念が、土俵に上がることを後押しした。

 9日目の夜、横浜・興禅寺の市川智彬住職が宮城野部屋を訪問した。顔を見た白鵬は「また座禅をやらなきゃいけませんね」と切り出した。同住職は「『また原点に戻ってやろうか』と言おうと思いましたが、本人が分かっているようでした」と話す。勝とうとする気持ちを忘れ、自分の相撲を取り切ればいいと諭した。また納谷幸喜氏(元横綱大鵬)からは電話で「悪いなら休んで完全に治す。やるなら思い切って頑張れ」と激励された。

 左人さし指の痛みが劇的に改善することはなく、休場とも背中合わせだ。「気持ちで参ったことはない」と自らを奮い立たせた。残り5日間、勝つことで横綱の誇りを見せたい。【高橋悟史】