<大相撲九州場所>◇11日目◇19日◇福岡国際センター

 大関稀勢の里(28=田子ノ浦)が、全勝横綱を引きずり下ろした。強烈な突き押しで果敢に攻め続けて、逃げ回る鶴竜(29)を土俵外へ押し出し。自らの優勝の望みを消させはしなかった。横綱白鵬(29)は3連敗中だった大関豪栄道(28)をはたき込みで退けた。1敗で2横綱が並び、稀勢の里と平幕栃ノ心(27)が2敗で追う。

 力強く伸ばした手。そして、頭。一撃一撃に、魂がこもっていた。「昨日、情けない相撲を取ったんで、今日は何とかという気持ちで」。稀勢の里の意地が、鶴竜を引きずり下ろした。

 立ち合いで踏み込まれても、左おっつけで残すと、攻めに攻めた。のど輪、もろ手突き。まるで闘牛のように、頭突きで横綱の右肩にぶつかりもした。ひるんで逃げ惑う相手をとことん追いかける。土俵を回ること2周。そして、押し出した。17秒6の熱い相撲。場所前に傷を負い、かさぶただった右まゆの上からは、血がしたたり落ちていた。「(相手が)よく見えました」。根性を見せた。

 前日、日馬富士にあっけなく負けた。2差がつき、優勝の望みは消えかけた。だが、あきらめの文字はない。相手が全勝の鶴竜とあらば、なおさらだった。

 初優勝も横綱昇進も、鶴竜に先を越された3月の大阪。場所直後の伝達式が行われるさなか、稀勢の里は電話をかけた。「新しい締め込みをつくりたい」。業者が訪れ、色見本を提示しようとすると、大関の方から「本物の茄子紺(なすこん)って、どの色?」と尋ねた。

 「紺色の『こん』には、漢字にすると根っこの『根』や『魂』があると聞いた。何かが変わってくれればという気持ちもあって」。選んだのは、少し紫がかった本物より、紺色を強めた茄子紺の締め込み。秋場所から締めるそのまわしが、ようやくなじんできた。

 12日目は横綱白鵬。「今日みたいな、自分の相撲がしっかり取れればいい」。「こん」には「今」という字もある。わずかな優勝の望みをつなぐためにも、今まさに、勝たねばならぬ相撲が待つ。【今村健人】