<東京6大学野球:早大3-1慶大>◇最終週初日◇1日◇神宮

 優勝へマジック1としていた早大が慶大を3-1で下し、2季ぶり41度目の優勝を決めた。斎藤佑樹投手(2年=早実)が、7回7安打6奪三振1失点で、自己最多を更新するシーズン6勝目を挙げ、3度目の最多勝が確定。2年秋で通算17勝とし、法大・江川卓(74~77年)以来となる、平成初の40勝が現実味を帯びてきた。

 ドラフト指名された3選手のあとに、大黒柱の斎藤が3度宙を舞った。春に1度優勝を逃したことが、喜びを倍増させる。「ずっと1年生の時から優勝しかなくて。優勝じゃないのを1度味わうと、もっとうれしくなる」。ベンチから見つめた勝利の瞬間。歓喜の輪には堂々と、最後に小走りで加わった。

 マジック1の大一番でも冷静さは失わない。7回1死一、三塁のピンチ。カウント2-1からスクイズを仕掛けた相手に「故意に外した」。スタートを切る三塁走者が見えた。スライダーをわざと手前でワンバウンドさせる。「リーグ戦初」の荒技だが、バウンドが手前過ぎて、ストライクゾーンに入った。結果的に決められて苦笑いしたが、確かな成長を感じていた。

 試合後のヒーローインタビューでは、4年生への感謝を口にした。「特に細山田さん。1年生の時から受けてもらっていたので、優勝をプレゼントできて良かった」。今夏のチェコ遠征中、細山田の父斗史郎さん(享年54)が亡くなった。一報を聞いた直後、黒いTシャツを切り刻み、喪章にして投げた。斎藤の言葉をベンチで聞いた細山田は泣いた。斎藤の目にも、うっすら涙が浮かんで見えた。

 初のシーズン6勝で、目標とする40勝が見えてきた。「何か手応えをつかんだシーズンだった」。勝負どころの法大、明大戦では10日間で5度先発し、優勝をたぐり寄せた。全国制覇した2年前の早実時代を思い出させる鉄腕。記念品にはこだわらない。しかしあの夏、優勝直後に甲子園のマウンドで集めた土は、今もスパイク袋に入れたまま、実家に保管している。原点回帰のシーズンで、頂点に立った。

 勝ったことで、戦いは続く。明治神宮大会で、昨年逃した日本一を目指す。この日は楽天田中の誕生日。コメントを求められると「今度一緒に飲みましょう」と笑った。先月25日、母しづ子さんの誕生日前日に家族4人で食事した。いつも通り、お小遣いでプレゼントを贈った。20歳になっても変わらない。「勝利の美酒って言うんですかね。先輩と飲めるのがうれしい」。2日勝てば、恒例の「ちょうちん行列」が行われる。しばしの休息をはさみ、再び戦いに歩みを進める。【前田祐輔】