セ・リーグは上位3チームによる混戦で、これから秋本番を迎え、ますます激しくなりそうだ。篠塚和典氏(64=日刊スポーツ評論家)に、今後の優勝争いの行方、勝ち抜く決め手を聞いた。

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巨人、ヤクルト、阪神の3球団は、これから最後まで激しく競り合うことになるだろう。どこの球団にも力でねじ伏せるエースが不在。爆発的な打力も望めない。そうなると、最後に決め手となるのは監督の采配になる。

左から阪神矢野監督、ヤクルト高津監督、巨人原監督
左から阪神矢野監督、ヤクルト高津監督、巨人原監督

まず、戦力、残りカードを見る。ヤクルトは下位3球団に対し「18」と大きく勝ち越している。巨人、阪神には「11」の負け越しも、下位球団との対戦を23試合残しているのはプラス材料だ。一方、巨人、阪神の直接対決はほぼ五分。両チームともヤクルトには分がいいが、下位球団の中で大きく貯金が見込める球団は見当たらない。

ヤクルトは9月17日から10連戦を控える。最初の2連戦が巨人戦(東京ドーム)。その後は広島、DeNA、中日と続く。巨人に連勝し連戦を大きく勝ち越せば、弾みを付けるだろう。

また巨人、ヤクルト、阪神の直接対決でのカード別の各打者打率、先発陣の防御率を見ても、大きな差は見いだせない。3球団とも決め手を欠くのが現状だ。最も勝ちが見込める先発を直接対決にぶつけることになるだろうが、まずは目先の1勝を取りにいくしかない。

こうなると、大きくものを言うのが監督の采配となる。中でも実績がある巨人原監督の攻め手に注目だ。打線で固定できているのは坂本、岡本和くらいだろう。丸の不振が響き、原監督も置き所に腐心している。また、中田の加入で打線に厚みが出たとは言えない。むしろ、シーズン終盤に差しかかった時期に、実績ある打者が特殊事情で加入したことで、選手起用が難しくなった側面も感じる。

腕組みをして戦況を見つめる巨人原辰徳監督(左)。右は元木大介コーチ(2021年9月10日撮影)
腕組みをして戦況を見つめる巨人原辰徳監督(左)。右は元木大介コーチ(2021年9月10日撮影)

そんな状況下、最後の詰めの段階に入る中で、団結力が不可欠になってくる。全選手、コーチ、スタッフが優勝に向かってひとつになれるか。そのためにはコーチ陣は担当部署の選手のコンディション、力量、精神面を確実に把握し、助言、叱咤(しった)しながら、コミュニケーションを図らなければならない。戦う集団としての姿勢を、原監督にしっかり伝わるように作り出していくことだ。

投手交代、代打策を決断する時、判断材料をしっかりそろえておきたい。これがもっとも重要だ。いい情報ばかりではなく、今はこの選手はコンディションを崩している、スランプになりかけているなど、負の情報も進言できるようでなければならない。その核になるのが元木ヘッドだ。ヘッドを軸にあらゆる情報をチーム内で共有できるようにしておくことだ。

そして緊張感の維持。これにはベテランへの活が効果的だ。藤田監督時代、私もチャンスで凡退した後、ベンチに戻り藤田監督と視線が合い、その眼光に背筋が伸びたことがある。それはベンチの若手、中堅も鋭く観察しているもの。その張り詰めた緊張感から、勝利への執念が生まれてくる。

今の巨人にそれができるか。士気を高め、原監督が決断しやすい空気を醸成する、今こそコーチ陣の真価が問われる。この混戦を制してこそ、伝統ある巨人と言える。(日刊スポーツ評論家)

◆後半戦のセ・リーグ 8月13日の公式戦再開後、勝率トップは中日。しかし貯金は2で、最下位の広島も借金2と、抜け出すチームが出ていない。前半戦は借金10以上だった下位3チームの奮闘が、後半戦の混戦を演出している。上位3チームにとっては、下位チームとの対戦が今後のカギになってくる。

選手の交代を告げる巨人原辰徳監督(2021年9月12日撮影)
選手の交代を告げる巨人原辰徳監督(2021年9月12日撮影)