まだ始まったばかりとはいえ、好調なチーム同士の首位争いは見応えのある試合になった。巨人と広島の勝敗の行方は、わずかな駆け引きの差だった。

広島床田と巨人メルセデスの投手戦。3-2で広島がリードした8回裏だった。やや疲れが見え始めていた左腕床田だが、広島ベンチもなんとかこの1イニングを抑えてほしいと思っていたはず。しかし、1死から吉川が二塁打し、打席に坂本を迎えて右の島内にスイッチした。

この交代は床田と坂本のここまでの対戦結果から導いたのだと思う。四球、センターオーバーの二塁打、センター前ヒットで、打たれたヒットはいずれもチェンジアップ。決め球を仕留められている上、床田の一番の武器は右打者の内角にマッスラ気味に食い込んでくる真っすぐ。坂本は内角球に強く、試合展開を見てもホームランだけは避けたい場面だった。

「目の前のピンチをどうしのぐか」という広島ベンチ采配は、間違いとは言えない。しかし、ここから微妙にボタンを掛け違っていく。結局、坂本の7球目にワイルドピッチ。これが痛かった。三塁に進み、坂本には四球を与えた。

ここから巨人は坂本の代走で増田大を起用。勝負手を打った。坂本は単独盗塁を狙えるほどではないが、足は遅くない。今季は延長12回まであり、主軸を引っ込めるのは“賭け”でもあった。

「同点狙い」ではなく「勝ち越し」を狙う巨人に対し、広島も真っ向勝負に徹した。ポランコの4球目に増田が盗塁した際、捕手の磯村は三塁への偽投をした。内野は中間守備だっただけに、ここは「1点は仕方ない」と腹をくくって二盗阻止にかけた方がいいと思えたが、重盗を警戒してあくまでも同点阻止を考えたのだろう。ここが勝敗を分けた。

盗塁後は前進守備に変えたが、ポランコはライト線へ逆転タイムリー二塁打。カウント2-2で追い込んでいたし、一塁は空いていた。1点をやらない野球をするならボールゾーンで良かったが、打たれたのは外角低めのチェンジアップ。紙一重の難しい球ではあったが、真っ向勝負が続いただけに広島バッテリーはバットの届くコースに投げたし、ポランコも果敢に打ちにいった。見応えがある勝負だった。

まさに勝負事の醍醐味(だいごみ)だろう。好調なチーム同士が、強気に攻め合った内容だった。こういう試合を続けていけば、選手は間違いなく成長する。

もしポランコまで床田を代えなかったら? もし巨人が坂本に代走を送った時点で「同点は仕方ない」と腹をくくっていたら? もちろん結果論なのは分かっている。これが野球の面白さ。いい試合だった。(日刊スポーツ評論家)

巨人対広島 8回裏巨人1死一、三塁、ポランコ(左)に右越え2点適時二塁打を浴びた島内(中央)(撮影・足立雅史)
巨人対広島 8回裏巨人1死一、三塁、ポランコ(左)に右越え2点適時二塁打を浴びた島内(中央)(撮影・足立雅史)
巨人対広島 8回裏巨人1死一、三塁、ポランコの右2点適時二塁打に盛り上がる坂本(左から3人目)らベンチ(撮影・足立雅史)
巨人対広島 8回裏巨人1死一、三塁、ポランコの右2点適時二塁打に盛り上がる坂本(左から3人目)らベンチ(撮影・足立雅史)