ヤクルト村上宗隆内野手(22)の勢いが止まらない。6月は月間打率4割1分、14本塁打、35打点。シーズン成績でも29本塁打、78打点でリーグトップを独走し、打率3割7厘で3冠王も狙える位置にいる。首位をひた走るツバメ軍団の4番はなぜここまで驚異的な進化を続けられるのか。日刊スポーツ評論家の鳥谷敬氏(41)が特別企画「鳥谷スペシャル」でポイントを分析した。【聞き手=佐井陽介】

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村上選手の昨年と今年を映像で見比べてみました。全試合全打席をチェックできたわけではありませんが、今年は以前にも増して、逆方向である左中間への大飛球が多くなっている印象を受けます。

もともと左中間に強い打球を飛ばせる特長の持ち主。今年はこの左中間への当たりにさらに角度がついている気がします。では、なぜ左中間への打球がより一層上がるようになっているのか? ポイントは「体の向き」にあるように感じます。

投手目線で見れば、今年の村上選手はなかなか胸が見えてこない打者です。バットを構えてから振り抜くまでの間、胸が左打者の正面となる三塁ベンチに向き続ける時間が長いのです。振り出しが遅く、ギリギリまで右肩が開かないと表現したら分かりやすいでしょうか。そうなると、打球の方向にも変化が生まれてきます。

インパクトを迎える瞬間の体の向きをイメージすれば、より理解してもらいやすいかもしれません。投手側に胸が見える時間が長い、つまり右肩の開きが少しでも早ければ、打球の方向はその分、右側に寄っていきます。逆に、胸が見える時間を短くできれば、打球方向を左方向に数メートルズラすことができます。

村上選手の場合、これまでは広角に強い打球を打ち分けられる一方で、完璧にとらえた打球が右中間から右翼ファウルゾーンに飛ぶケースも少なくなかったように映ります。それが今季は傾向として、完璧にとらえた打球の方向が左中間から右翼フェアゾーンに少しズレているように感じます。強い打球がフェアゾーンに飛ぶ確率が高くなれば、打率や本塁打といった数字が向上するのは必然の流れですよね。

あのイチローさんも意識されていたように記憶していますが、左打者にとって「投手に胸が見えないようにする」作業は重要なテーマの1つです。左打者は振り切った先に走りだす方向があり、右打者と比べてどうしても肩が開きやすくなりがちです。この肩の開きを我慢できるかどうかで、打球の質は大きく変わってきます。

今年の村上選手は以前にも増して右肩の開きが遅くなり、常にボールに力を伝えられるポイントでスイングできています。体を回転させながらボールにバットを当てるのではなく、バットでボールを押し込みながら回転していくイメージ。だから今まで以上に強い大飛球を広角に飛ばせるようになっているのではないでしょうか。

当然、肩の開きをギリギリまで我慢できれば、ボールを見極められる時間も長くなります。わずか0コンマ何秒の世界ですが、これも打つ確率を高める上で大きなアドバンテージの1つ。村上選手が打球の質と確率を同時に向上させているのは、決して偶然ではないということです。

さらにいえば、今年の村上選手は最初から腕を張らせた状態でバットを構えています。昨年はバットを引いてから腕を張らせていたように思いますが、今年はその動きも省略したように映ります。早くも反動をあまり必要としなくなっているのかもしれません。

エンゼルスの大谷選手もそうですが、スイングスピードが速く遠くに飛ばせる打者は、フォームを改良していく中で小さな無駄をどんどん省いていくことが可能となります。そうなると、突然のクイックモーションや動きの鋭い変化球にもより一層対応しやすくなります。

まだ22歳。その驚異的な進化のスピードにはただただ「すごい」としか言いようがありません。体格にも恵まれ、精神力の強さも感じられるプレーヤー。どれほどのスーパースターになってくれるのか、楽しみでなりません。(日刊スポーツ評論家)