打倒広島には足を使うべし。広島初のリーグ3連覇監督で日刊スポーツ評論家の緒方孝市氏(53)が5日、今季の広島戦で0勝9敗2分けと大苦戦している阪神に必勝ポイントを指南した。対広島に10勝1敗1分けと圧倒している首位ヤクルトが、同戦で17もの盗塁を決めているデータに注目。対照的に広島戦の盗塁が4しかない虎に、“足攻”の必要性を説いた。【聞き手=編集委員・高原寿夫】

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広島監督として3連覇していたとき、阪神にはずっと勝ち越していたが、勝負は常に「紙一重」だと思っていた。そこには“流れ”もある。ここまで広島に対し、1勝もできていない阪神とはいえ、両者の戦力に大きな違いはないはず。逆に言えば、1つ勝てば状況が変わってポンポン連勝するようなことも十分、あり得るのだ。

なぜ勝てない、なぜ負けているという理由は、いろいろあるだろう。投手がよければ打てないし、打者に痛打されることもある。それでも戦略面でポイントを1つ挙げれば、阪神の盗塁数に表れているのではないか。ここまでの広島戦11試合で、阪神が決めた盗塁数は「4」しかない。これはセ・リーグの球団別で最少タイだ。企図自体も「5」。これが不思議で仕方がない。

0勝9敗2分けで広島に勝てない阪神同様、広島が苦しんでいるのがヤクルトだ。ここまで広島の1勝10敗1分けで、こちらも圧倒的に負けている。そこで目立つのがヤクルトの盗塁数だ。

ここまでの広島戦12試合で、ヤクルトは実に17盗塁を決めている。企図も20回あり、他球団と対戦するときと比べて、走りっぷりがまるで違う。ズバリ言って、広島の弱点は捕手だろう。例えば阪神梅野隆太郎のように「いつでも走ってこい」という雰囲気の捕手は見当たらない。広島ベンチは常に盗塁、エンドランなど足で攻められるのを警戒しているはずだ。

だからこそ、ヤクルト高津監督はそこを徹底的に攻めているのだ。ヤクルトが示している広島の弱点を阪神はなぜ攻めないのか。そういう姿勢がなければ、紙一重の戦いを制することはできない。相手にスキがあると思えば、徹底して突くのは勝負の鉄則だろう。

100%成功の自信がなくても、俊足の走者に限らなくても狙えばいいのだ。仕掛けていけば、相手バッテリー、ベンチはイヤな感じになる。そこから投手のタイミングが崩れたり、配球に影響が出たりするのはよくあることだ。

もちろん広島にも言えることだが、阪神もまだ「時すでに遅し」ではない。ヤクルトの独走状態は続くが、クライマックス・シリーズ(CS)もあるし、Aクラス入りし、CSを勝ち抜いてセ・リーグの代表として日本シリーズに出場するチャンスも残っている。そのために重要なのは、次の試合だ。「この1試合」「次の戦い」の積み重ねが、その先につながっていくことを忘れずに戦うべきだ。(日刊スポーツ評論家)

▼今季の広島戦の勝敗は盗塁数も大きくかかわっているようだ。9敗2分けの阪神と同様、DeNAも1勝11敗と苦戦。この2チームは、同戦の盗塁企図数も阪神5、DeNA4と少ない一方で広島戦10勝1敗1分けのヤクルトは、断トツの20企図で17度成功させている。