日本初の開閉式屋根の天然芝球場の誕生へ-。23年春開業予定の日本ハム新球場「エスコンフィールド北海道」の目の前に、寒冷地での天然芝の管理維持方法を検証する施設がある。新球場の30分の1サイズで作られた6棟のミニチュア球場で、19年10月から3年かけて検証を実施。新球場の設計、施工を担う株式会社大林組の主席技師、十河(そごう)潔司氏(53)の案内のもと、「ミニ球場」に潜入した。【取材・構成=田中彩友美】

天然芝検証施設で研究する大林組の十河氏(撮影・田中彩友美)
天然芝検証施設で研究する大林組の十河氏(撮影・田中彩友美)

19年3月から3年間生育状況データ収集

重機音が鳴り響く「エスコンフィールド北海道」とJR千歳線との間に、6棟の「ミニ球場」がある。実際の新球場を30分の1サイズで、方角やスタンドの位置も同様に配置。ガラス素材も同じものが使用され、日当たりや風向きまで、新球場と同じ条件で設計された。19年10月から、寒冷地での天然芝管理維持方法の検証が行われている。

3年の歳月をかけて棟ごとに温度や湿度、地温、風量、日照時間などそれぞれ条件を変えて、生育状況のデータを収集。さまざまなパターンを組み合わせて、最適な天然芝の育成方法を探っている。実際の試合時間に合わせて、スパイクで芝を踏む作業もある。各棟1~6番まで振り分けられ、数字が大きくなるほど肥料やグローライト(人工ライト)をふんだんに使用され、育てられてきた。

6棟ある天然芝検証施設の1つ。それぞれ育成状況が異なる(撮影・田中彩友美)
6棟ある天然芝検証施設の1つ。それぞれ育成状況が異なる(撮影・田中彩友美)
6棟ある天然芝検証施設の1つ。それぞれ育成状況が異なる(撮影・田中彩友美)
6棟ある天然芝検証施設の1つ。それぞれ育成状況が異なる(撮影・田中彩友美)

国内にノウハウなく「越冬」最大の難関に

施設を案内してくれたのは、大林組の十河氏。同社技術研究所の主席技師で責任者を務めている。1番の棟の芝は、一目で分かるほど内野部分が剥げていた。芝を軽く引っ張ると、根まで抜けてしまいそうなほど弱々しい。対照的なのは6番の芝。内外野を見渡しても青々と茂り、触っても弾力が感じられた。主に「越冬」「越夏」「春の立ち上げ」「秋の回復」の4つの時期をメインに、見極められてきた。

最大の関門だったのは越冬期間。十河氏は「国内で誰もがノウハウを持っていない、積雪のない状態での越冬」がポイントだという。通常のグラウンドやゴルフ場では越冬期間は積雪があり、芝面の温度・湿度は一定=休眠状態になっている。雪がない状態では温度も湿度も変化するため、地温コントロールと芝にかぶせる保温カバー、グローライトなどの3つを使い分け、管理方法を検証した。「最初は80%くらいが不安で。ハラハラ、ドキドキでした」と振り返る。プロ野球12球団で天然芝を採用しているのは3球場。その中で最北の楽天生命パークと同じ芝「ケンタッキーブルーグラス」が使用されている。暑さや擦り切れに強い特長を持つ。

エスコンフィールド北海道の手前が天然芝の管理維持方法を検証する施設(撮影・田中彩友美)
エスコンフィールド北海道の手前が天然芝の管理維持方法を検証する施設(撮影・田中彩友美)

芝ファースト合言葉、様々なプレーに対応

「芝ファースト」を合言葉に、毎朝夕2~3人が中心となって管理。今年10月には新球場への芝張りが始まる。同時に、同検証施設は解体となる。「あっという間の3年でした。新球場ではファイターズさん、グラウンドキーパーさんとのコミュニケーションが大事になってきます。どんなプレーをしても大丈夫な良い状態の芝生を、年間を通して育てていけるように管理していきます」と十河氏。

日本初の試みとなる開閉式屋根の天然芝球場。完成後も、技術者の夢を乗せた挑戦は続いていく。

◆十河潔司(そごう・きよし)1968年(昭43)8月18日生まれ。92年に大林組に入社。農学部出身の経験を生かし、緑化関係の仕事に尽力してきた。03年からサッカーJ1神戸の本拠地「ノエビアスタジアム神戸」で15年間、天然芝の維持、管理に携わった。モットーは「3現主義」で現場、現物、現実を大切にしている。

選手が語る新球場(2)

今川優馬外野手(25)

エスコンフィールド北海道はより近く、グラウンドレベルで野球を見られる楽しさだったり、面白さがあるのかなとイメージしています。新球場1号、打ちたいですね。地元ですし、より北海道を盛り上げていけたらと思います。

ファンの声援はすごくうれしいですし、応援があるほど燃える。プレッシャーは全くありません。社会人のときも都市対抗のときは、すごい会社の人が応援にくるので、すっごい応援してくれる。やっぱり応援してくれたほうが、すごい楽しくできたなという思い出があるので、もっと応援してくれ~! って思いますね。

小学生のときから、とにかく野球が好きでした。試合前の練習から見に行って「稲葉さーん」と呼んだら手を振ってくれたのは、今でもうれしくて覚えています。選手の立場になって、いかにファンの人たちに喜んでもらえるかを意識して取り組んでいます。僕だったらフルスイングして、ホームランをお見せすることが一番の楽しみだと思う。新球場1号のライバルは野村、万波、清宮。この3人はいつも一緒で、いつもバッティングの話をしながらやっています。若い3人ですけど、僕も負けられないと、いつも思っています。