ソフトバンク内川のプロ野球人生は新世紀とともに始まった。3年間は下積みの時代。ようやく04年から1軍定着する。横浜(現DeNA)時代を含め、今季はちょうど15年目。球界をリードする希代のバットマンだが、誤解を恐れずに言えば、内川にとって今年もまた「失敗」のシーズンであった。

 内川の永遠なる目標は「10割打者」である。「今年はいい当たりだったけど、ヒットにならなかった。あれがヒットになっていたら気分も違っていたでしょうね」。3月30日の開幕戦。第1打席。オリックス先発西の前に右飛に終わった。この時点で、夢はついえたのである。「本当に10割を狙っているんです」。FAを行使し、故郷九州に戻ってきてからそう言ってはばからない。もちろん、シーズンは長い。初打席で夢が終わったとしても、いかに打率を上げていくか。次なるフォーカスはそこに絞られる。どれだけ安打を積み重ねても「10割」の数字には届くことはない。だが、延々と続くシーズンは内川にとって「失敗」を取り返すための時間なのだ。

 「いかに10割に限りなく近づけるか、そういうつもりで打っていますから」。

 今春の宮崎キャンプ。ホークスOBで通算2901安打を放った野村克也氏(プロ野球解説者)が訪れた。「天才が努力したらかなわない。内川は遠い遠いところに行ってしまったわ。長嶋も遠い遠いところに行ったんでね。内川もそういう選手」。辛口でなるノムさんは内川の打撃をそう評した。打撃フォームが崩れず、どの方向にも無駄なくバットが出る。金字塔を前にして珍しく「心の制御」に苦労はしたが、球史に残る打者の1人であることは間違いない。理想の体作りと打撃を追い求め、今季は上半身の筋トレも排除した。8月には36歳になる年男。残るプロ野球人生もそう長くはないだろうが、夢は追い続けるつもりだ。【ソフトバンク担当 佐竹英治】