日本シリーズ期間中のある練習日のことだった。「長谷川さん、何付けてるんですか?」。「ん、ああ。開けたら出てきた」。ソフトバンク長谷川勇也外野手の練習用防具に貼られていたのは、アニメ「ドラゴンボールZ」と「ビックリマン」がコラボした「ドラゴンボールマンチョコ」の孫悟空とベジータのシールだった。遠征先のバス移動中に食べるなどし、ひそかに集めていた模様。「ロココ悟飯が欲しいんだよね」。長谷川勇はレアなシールの名前をつぶやき、素振りのためバットを片手にミラールームへ消えていった。

そんな風に、選手の意外な表情を見られるのも、この仕事の楽しみのひとつだが、ここまでは余談。長谷川勇のバット1本にかける姿勢は、見るものを引きつける。という話をしたい。練習風景が面白い。突然、声を出しながらティー打撃をしたり、練習の打席の端にボールを置いてみたりする。人とは違うアプローチが気になり聞いてみると。「うーん…なんだろう。気分」。素っ気ない言い回しだが、この間、じっくり頭の中で言葉を探してくれる。それでも説明できない独特の感覚を日々、研ぎ澄ましている。

西武とのCSファイナルステージを控えたある日の言葉が心に残っている。「練習でやっていることしかできない。あとはボールに聞いてくれって感じだな」。1試合に1度、あるかないかの打席に向けベストを尽くす。試合に入れば、10倍界王拳のような集中力で周囲を寄せ付けない気迫すら漂わせることもある。そんな長谷川勇の打席にはいつも、期待感というか高揚感というか、他とは違う気持ちで見入ってしまう。【ソフトバンク担当 山本大地】