あまり知られていないかもしれないが、金田正一さんは17年までロッテ球団の取締役を務めていた。同年、伊東監督が勇退を表明。後任探しのため、私は都内の自宅のチャイムを押した。インターホン越しに応対してくれたご家族が、趣旨を伝えてくれた。「父が『会うのはできないが、電話してくれ』と言っています。次の番号にかけて下さい」。思わぬ展開だった。

自宅前からかけると、すぐに本人が出てくれた。電話の前で待ってくれていたのだろう。第一声に、たじろいだ。「おお、どうした?」。え、面識あったかな…いや、ないはずだ…と少し頭が混乱した。気を取り直し、かくかくしかじかで後任は井口選手じゃないかと思うのですが…と振ったら、もっと度肝を抜かれた。「え、伊東、辞めるのか? 知らんかったわ。すまんなあ。ガハハ」。後任はともかく、伊東監督が辞めるのを知らないわけがない。見ず知らずの記者にも気さくに応じてくれたが、返ってきた答えがこれ。おかしくなってしまった。取材の成果としては0でも、「カネやん」の人柄に触れたようで、うれしかった。

2度、町中で見かけたことがある。1度目は、もう閉店してしまったが、サウナ東京ドーム。受付の人と世間話でもする気安さで話していた。2度目は帝国ホテルのトイレですれ違った。「金田さんだ」と背筋が伸びた。思わず会釈したら「おお」と声をかけてくれた。自宅にお邪魔する前。面識はなかった。【15~17年ロッテ担当=古川真弥】