電話のむこうから、張りのある声が聞こえてきた。「元気でやってるよ。店は閉めたままやから、動く機会が少なくなって、ちょっと腹が出てきてなあ。これはあかんな、と思って、散歩してます」。会話の相手はオリックスの元スカウト部長で、今は大阪・ミナミでスナック「堀井」を切り盛りする堀井和人さん(72)。節目の開業10年目を迎えた「堀井」は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で4月初旬から休業。オーナーは、野球界の現状を思いながら毎日を送っている。

選抜大会が史上初の中止となった今春は、出場が決まっていた球児を思い、自分のことのように悲しんだ。今は、思うような練習もままならないプロ、アマの選手を気にかける。視察もできず、活動自粛で自宅待機中のスカウトたちを「大変やなあ」と思いやる。

スカウトにとって、選手を評価するための主要な手段の実戦を見る機会は激減している。どうすれば、今年の異例のドラフトを乗りきることができるのだろうか。「スカウトの“見る目”と“情報量”“記憶”が決め手になるよ」。南海-ダイエー-近鉄-オリックスで30年ものキャリアを持つ堀井さんは、そう教えてくれた。

少ない視察の機会の中で、選手の能力や勝負強さを見極めるプロの目は不可欠。さらに普段の練習態度や性格などの情報を集めるには、人脈が頼りになる。アマ球界と強い信頼関係を築けていれば、正しい情報が入ってくる。

「記憶」とは、前年までの選手の印象度。大半のドラフト候補を、スカウトは下級生のころに見いだし、リストに挙げる。忘れられない印象を持つ候補が、実際に指名する対象になっていく。

堀井さん自身は、近大のドラフト1位候補、佐藤輝明内野手(4年=仁川学院)を見るのを楽しみにしている。「リーグ戦で見たいなあと思ってるんや」と、近大が所属する関西学生野球の開幕を心待ちにする。野球シーズンが軌道に乗ったころ、ミナミのスナック「堀井」にも常連客が戻り、野球談議に花を咲かせているだろう。【遊軍=堀まどか】