「プロ野球選手になって、泣いたことありますか?」と聞いたことがある。ヤクルトを退団した近藤一樹投手(37)が、来季からは四国IL・香川で投手コーチ兼任として現役を続けることになった。

練習も、試合も淡々と取り組む印象が強い近藤だから、聞いてみたかった。少し考えて、本人の答えは「2回ある」とのことだった。教えてくれた2つの思い出には、チームメートから慕われる理由が詰まっていた。

16年7月、オリックスからトレードでヤクルトへの移籍が決まった。球宴の休み明けに、オリックスの練習場をあいさつのため訪れたという。その年、5試合の登板にとどまっていたこともあり「(トレードと言われて)もちろんびっくりしたし、不安もあった。でも期待感もあって『よっしゃ行こう』という気持ちだった」。前向きな気持ちでチームメートと会ったはずなのに、ボロボロ泣く後輩たちの姿に伝わってくるものがあった。1人ずつ順番に、言葉を交わしながら握手。オリックス元年からともに戦っていた金子(現日本ハム)へ「行ってくるわ」と言った瞬間、涙が流れていたそうだ。「みんな、なんでそんなに大泣きするの? と思っていたのに、自分も泣いていました。チームへの愛着や、不安に思っていた部分が出たのかなと思う」と話していた。ヤクルトでも近藤が練習しているとなりには、投手陣の後輩だけでなく、野手の姿もあった。投手コーチ兼任となる香川では、人に教えることにたけている強みが生きるに違いない。

もう1回は、09年。オリックスで先発ローテーションを守っていたが、5月から自身6連敗。責任を感じながら、7月7日ソフトバンク戦(京セラ)のマウンドに上がった。「チームも自分も、勝利をつかもうとしているけど、負の連鎖があるのかなと。どうせまた負けるんだろうと思ってしまっていた」。0-1で迎えた7回、打線がつながり3点を奪って逆転。さらに8回、後にヤクルトでもチームメートになる坂口が2ランを放った。チームメートにガッツポーズをした坂口は、降板してベンチにいた近藤に向けてもガッツポーズ。その勝利への気持ちが、心に響いた。「ボロボロ涙が出た。負の連鎖なんて思っていたのは、俺だけだったんだと気付けた。それから、スイッチが入りました」。実は坂口が7月7日、近藤が7月8日と誕生日が1日違い。坂口はバースデーアーチでもあった。その年、9勝を挙げた。

近藤の退団で、NPBの近鉄戦士は残り坂口1人となった。“近鉄”というワードが出るたび、近藤は「プロ入りのきっかけを作ってくれた球団」と感謝の気持ちを口にしていた。その思いは、来年も変わらないはずだ。

球団は違っても、プレーする舞台は違っても、この魅力は必ず届く。もし3度目の涙を流したら、また取材させてほしいと思う。【保坂恭子】